誕生日
誕生日とは、皆さんに必ず訪れる大切なイベントである。
最近では、年齢を重ねることが少し嫌ではあるが、家族や友人に祝ってもらえばうれしいものである。
最近のことだが、友人とご飯を食べに行った時のことである。
その店は、こじんまりとしたレストランで雰囲気も落ち着いている、オムライスのうまい店である。
その日は、私と友人以外にお客がいなかった。
お店は、年配の夫婦が切り盛りしており、客がいなかったので、接客をしてくれるおばちゃんとも世間話をしていた。
ご飯を食べ終わりゆっくりしていると、若い大学生風の男性が一人店に入ってきた。
おばちゃんも客がきたため、大学生(?)にお冷と注文をとりにいった。
「いらっしゃい、メニューは決まってる?」
「じゃあ、このケーキのセットをください。」
夕飯時ではあるが、ご飯ではなく、ケーキを頼む大学生を我々は『スイーツ男子だな』などと考えていた。
しばらくすると、おばちゃんがケーキを大学生のもとに運んだ。
すると、そこで大学生はおもむろに
「実は・・・今日誕生日なんですよね。」
なんと彼は誕生日だったらしい。私は、夕飯時に一人でケーキを食べにきた大学生に心の中でお祝いをしつつ、悲しい現実も感じていた。
しかし、さすがおばちゃん明るい表情で大学生に語り掛けた。
「あら、そうなの何歳になったの?おめでとうね~。」
おばちゃんの優しいお祝いの言葉もあり、学生は少しうれしそうであった。
『流石おばちゃんだ』と思いつつ、これで大学生も多少は気分が上がったと思っていると、おばちゃんから更なる言葉がでてきた。
「じゃあ、この後は友達とお祝いでもやるのかい?」
「・・・。」
大学生からの返事はなかった。おばちゃんは現状をまったく把握していないのであった。
大学生の返事が鈍いことに、何かを感じとりおばちゃんは納得した表情になった。
我々は、『やっと気付いたか』と安心すると同時におばちゃんのリカバリーに期待した。
そうして、おばちゃんは少し考えるそぶりをした後に大学生に元気よく語り掛けた。
「ごめんね~。もしかして友達じゃなくて、彼女と過ごすんでしょ~。羨ましいわねぇ。」
「・・・。」
・・・不正解である。正解からむしろ遠のいている。もはや、我々から彼の表情をみる勇気は残されていなかった。
しばらくすると「・・・この後は友達と遊ぶんです。」と囁き声が聞こえるのを背に我々は店を去るのであった。