加藤教習所①
仕事の移動では、社用車を使用することが多く、一人の時もあれば、複数の時もある。
相手が、後輩であれば運転は任せるが、先輩であれば、私が運転する。
しかし、人の運転とは、気になるもので、特に新人の場合は運転に慣れておらず、ついつい口をはさみたくなってしまう。
私も今でこそ、運転に多少の注意をしてしまうが、新入社員の時は、言われる立場であった。
しかし、何事も適度が大事だと思う。
私の新人のころのトレーナーである加藤先輩は、非常にうるさい奴であった。
私が、最初の支所に配属されて、社用車を運転させてもらえるようになったころ、加藤先輩はよく付き添ってくれていた。
先輩を助手席に乗せているため、多少の緊張感を保ちながら、注意して運転をしていたのだが、ところどころ指摘が入る。
直線道路で、前方に信号がみえると
「あぁ~!信号赤だから、ブレーキ踏んで!」
信号までだいぶ距離がある気がするのだが・・・。
『きっと、社用車の場合は世間の目も考えて安全運転なのだろうと』と気持ちを新たに運転である。
次の信号を右折しようとすると
「はぃ!ウイィンカーだしてぇ~。」
曲がるまで、だいぶ距離がある気がするのだが・・・。
『きっと、過去に急に曲がって後ろから追突があったのだろう』と気持ちを新たに運転である。
道の空いた直線道路、少しだけ速度が上がると
「あぁ~!危ない、もう少しスピードを落として!」
『そんなに、速度出してないよね?』若干のいらだちを覚える。
これは、私のミスなのだろう、少しブレーキを強く踏んでしまうと
「おぉ~っと!危ない、危ない!」(私の腹部分に右手をかざして)
『俺、シートベルトしてるんだから大丈夫なのだが・・・。そんな急ブレーキだったかな?』もはや、何が正しいのかわからない。
とにかく。すべてにおいて言葉が飛んできて、教習所より厳しいレベルである。
きっと『加藤教習所』は日本一安全なドライバー養成所である。
流石に、毎回言われると、私も疑問を覚え他の同僚にも確認すると
「あぁ~、加藤先輩ね?あの人いつもうるさいよ。」
また、加藤先輩よりも上の人も
「たまに、俺が運転するときもあんなもんだよ。」
先輩に対してまでであり、その熱血指導には驚愕である。
そんな加藤教官に毎回うるさく言われると当然のことながら、おざなりに対処するようになっていった。
「私さん!もうすぐカーブですよ!」
「そうですか~。」
先輩に対しても若干遠慮がなくなっていた。
そのような日々が続いたときである。
私と先輩がいつも通り車で営業をしているとき、道の細い住宅街に差し掛かった。
道が細く、曲がり道も多いため、慎重に運転していると
「私さん、そこを右にカーブですよ!もう少し大きく膨らんで!あぁっ、危ない、危ない。」
また、『いつも通りの光景だなと』と思いつつ無視を決め込んで、カーブすると
『ガリガリガリッ』
嫌な音が、車の側面から聞こえてきた。
「あぁ~!だから言ったのに~。」
車を止めて、加藤先輩と確認すると立派な傷跡がドアにできていた。
加藤先輩のいうことは正しかったのである・・・。
もはや言い訳のしようもなく、事務所に戻る道中に小言を言われるのであった。
事務所に着くと、もちろん上司への報告が待っている。
私は、トイレを済ませてから、事務所に入り、上司に報告するべく向かうと・・・すでに加藤がいた。
「もうしわけありませんが、車をこすってしまいまして。」
「大丈夫、ケガはなかった?」
「はい、○○地区で右折の際にぶつけてしまい。」
なぜか、先に上司に報告をしており、加藤がぶつけたみたいになってた。
しかし、さすがに不味いと思い、私も報告に加わった。
「申し訳ありませんでした、私が不注意でぶつけてしまいまして。」
すると『えっ?お前なの?』と疑問な様子で上司にみられた。
「あぁ~、私君だったのね。勘違いしてたよ。」
上司も私がぶつけたことを理解して話を進めた。しかし、私が詳しく説明しようとすると加藤が横から。
「私が付いていながら・・・、申し訳ありません。」
実際には、たいした傷ではなく、次回から気を付ければいいと上司が言っているのだが、加藤先輩は『私がついていながら~』を枕詞に弁明を繰り返すのであった。
その後は、特に問題もなく、処理が終わり、収束したのであった。
それからは、加藤先輩の運転中の助言は留まることを知らず、むしろ運転してほしいと願う1年であった。