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中編

 サッパリー伯爵の生活は、それこそ順風満帆と思えるものでした。


 しかし、大切に育ててきた花ほど、散る時は早く、そして呆気ないものです。


 一番幼かった娘が成人し、大きな街へお嫁にいった直ぐ後の事です。


 伯爵の国では戦争が始まりました。ほんのわずかな領土をめぐる争いは、たちまち国中に広がって、ついに彼の町の直ぐ近くにまで戦火はやってきました。

 爆弾が其処彼処に落ちました。兵隊達が暴れまわりました。建物も、人も動物も、見えるもの全てが傷つけられました。


 そこで伯爵の息子二人も、兵隊として戦地に赴くことを決意します。

「父上、母上、安心してください。僕たちは必ず、この美しい町を守ってみせます」

 伯爵と夫人は大層慌てました。子供達まで怪我をし、もしかしたら死んでしまうと思ったからです。

 せっかく家族五人で仲良く暮らしてきたのに、死んでしまっては何にもなりません。

「大丈夫ですよ。ここを乗り切れば戦争は終わります。そうしたら妹夫婦も呼びましょう。この町は誰にも汚させやしません」

 兄弟は荷物をリュックいっぱいに詰め、町を出ていきました。


 伯爵と夫人はたった二人、小さな家に残されました。頼れるものは自分達だけです。

「ならば、我々は全力で町を美しく保とう。いつでも息子たちが帰って、元通りの生活を始められるように」

「えぇ、そうですね。貴方がそう仰るなら」



 長い、長い戦いの日々が過ぎていきます。

 サッパリー伯爵夫妻は、毎日、できるだけの事をしました。ある日は道に散らかった瓦礫を片付け、避難がし易いように整えました。またある日は、傷を負った人を手当てしました。

 それでも、全てに対処するには手が回らない程でした。


 二人の息子はちっとも帰って来ませんでした。

 古い家の庭に植わった白バラは、手入れが回らぬまま、ほったらかされていたのでした。



 町の爆撃が止んで、戦勝ムードが漂いだした頃。

 兄弟は伯爵のもとに帰ってきました。

 四肢はズタズタ、顔は真っ青で、「名誉の戦死」の報告と共に。


 見えない石ころに胸から喉を塞がれて、伯爵は家を飛び出しました。息子たちと夫人の前で石ころを吐き出し、家を穢してはならないように思われたのです。


 走って、走って、着いたのは白バラの花壇の前。

 貝殻で作った囲いは粉々になり、踏み荒らされたわずかな花だけが残っていました。


 サッパリー伯爵はつぶやきました。

「もう私の愛しいものを穢さないでくれ」



 〈つづく〉

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