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できそこない魔術師の師匠様  作者: 五月猫
一章 魔女狩り
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1-5 少年のように勇ましく

 少年の言葉に耳を傾ける。


「狂ってるってそりゃあどういうことだ?」

「そのままの意味だよ。あの御方は狂気を与える」

「ちょっと待て、どうしてその誰かの記憶はあるんだ? 管理されて他には漏れねえようにしてるんじゃねぇのか?」


 知らないよ、と返された。

 それもそうか。記憶を管理しているのが別の人物であって、ここにいる少年ではない。


「小僧の記憶は確かに管理されているのだ。けれどその者は裏切りを小僧が犯さないように狂気を与えた。裏切ればどうなるか、簡単話だ。何も知らない者に狂気を与えあれば、恐怖から従順な僕となる、今、小僧はそれと似た状況にあるということなのだ」

「だがよ、裏切っても全力で逃げればなんとかなるんじゃねぇか?」


 そうも単純ではないのだ、とロゼは首を振る。

 どうにも詳しくないと話しについていけない。


「狂気を与える対価に小僧は何かを差し出したはずなのだ、相手が人間なら家族、恋人、大切な者や物」

「僕は母さんを要求されたから差し出した」


 少年が口を閉じると同時に、俺は口を開いた。

 息を吸って、それを言葉と共に吐き捨てるように言った。


「なんだよそれ、狂気を与える対価って、何でこいつが何かを与えなきゃいけねぇんだよッ!」


 それにはさすがのロゼもピクリと肩を動かした。

 そして呆れたようにこう口にした。

 君は――馬鹿か、と。


 

 呆れ顔のロゼは俺に対し、対価と報酬について説明した。


「対価と報酬、これは元は魔女達が行っていたものだ。どうして人間がそれを知っているのかは理解を超えている。ただ、魔女で言うなら対価、主に相手からは家族・恋人ではなく、心臓を貰う。魔女にとって心臓とは魔法に息を吹き込むための核、つまりは魔法という未知の現象を人間に与える代わり、自身の目的を果たすための駒に不完全な魔法を教え、戦死させ心臓を貰い、報酬となる魔法を得る。これが対価と報酬なのだ」


 大体は理解した。


「それじゃあこいつは俺達に殺されることを前提にその誰かから魔法を与えられたのか?」

「うむ、そういうことになるのだ」

「僕はどうすればいいの?」 


 不安と恐怖が少年の心を蝕む。抑えていた体の震えが再び戻る。

 それにロゼは簡単なのだ、と答えた。

 何が簡単なんだ。


「小僧とその者の契約には一つほころびがあるのだ」

「綻び?」

「うむ、それは小僧が幼いことなのだ。記憶管理、狂気支配なんてのは子供向きではないのだ。幼い子供に魔法は効きにくい」


 どうしてだ、と訊く。


「純粋だからだ。魔法とは疑えば疑うほどに馴染む、純粋な心を持った小僧にはまだ然程馴染んではいないだろう。だから支配から解放することは容易たやすいのだ」


 どうしてここまで詳しいのか、それは今は置いといて、ロゼは少年の隣に寄り添って、頭の上に手を当てる。


しんなる純粋が、心清く、邪を払い、光を取り戻す――〈解放リレイズ〉」


 ロゼが詠唱を始めると、空いたもう片手に本が現れた。すると、光のベールが少年の身を包む。浄化の光は少年を解放する。これは使えはしないが知っている。


 療聖りょうせい魔法――第一節。〈解放リレイズ


「これで小僧、君はその者の手から解放されたのだ」


 特に変わった様子は見受けられない。当の少年本人も何が起きたのか理解出来ていないようだ。


「おい、何か変なところはねぇか?」

「何もないよ、それよりおじさん近い、怖いから離れて!」


 いつのまにか少年の顔がすぐ見える位置にまで寄っていた。


「安心しろ、ガキなんかに手は出さねぇよ」


 他では歳上の女が歳下のガキを好んで襲うって噂を訊いたことがあるが、俺は似た噂を作り出そうという気はない。


「あのさ、僕……女なんだけど……」


 照れくさそうに頭の後ろに手を当て、はにかみ笑いを見せた少女(?)に可愛いと思ったことは黙っておこう。


 

 ロゼは最初から見抜いていた、それに対して俺はなんだ小僧なんて紛らわしい呼び方してんだ、と問い詰めると、


「呼び方なんて何でも良かろう」


 と、返され、反論する気にもなれなかった。


「そうだ、お前名前はなんていうんだ?」


 まだ名前を聞いていなかった、とふと思い出し少女に尋ねる。


「僕はリーナ、よくリナって呼ばれる。けど町だとアークって名乗ってるんだ」

「なんでそんな男に拘ってるんだ?」


 格好も少年風で、少女と気が付けない。見た目にまんまと騙されたわけだ。


「ストックポートだと女の子は魔女になる可能性があるからって、大人になる前に他の町に連れて行かれるんだ。だから僕は母さんといる一緒にいるために、男の子の姿をしてるんだ」

「だからリナ、ううん、アークは男の振りをしていたんだな」

「おじさん、周りに人がいない時はリナでもいいよ。アークは町にいるときの名前だから」

「そうか、じゃあリナ、腹が減ったからちょっとここから移動しないか?」


 まだ朝飯も口にしていない。陽を見るに時刻は昼前と言ったところか。隣でお腹をさするロゼも口にはせずとも仕草で空腹を知らせている。丁度訊きたいことが山程あるし、ここいらで昼食がてらに話を交えるのも悪くない。と提案した。


「ここからなら町に戻るより、僕の秘密基地においでよ」


 リナを先頭に俺達は秘密基地へと歩き出した。



 森を抜け、少し開けた大地にぽつん、と佇む一軒の小屋。

 大きくも小さくも、丁度良いと言った広さ。

 リナぐらいの少女が一人で使うには十分過ぎる広さだと思っていたが、俺達が入ると少し手狭になった。


「適当に座ってて」


 木造りの椅子に座って、と腰を降ろされた。

 俺達が座ったことを確認したリナは一人、キッチンへと姿を消した。ガチャガチャ、と食器や食材が音を立てる。隣ではロゼが「もう駄目なのだ、君にこれだけは伝えておく――」とワケの分からないことを口にしていたので、うるせぇ、と一蹴りしておいた。

 しゅんと、まるで犬の様に大人しくなったロゼを余所目にキッチンで慌ただしく音を立てるリナが気になって椅子を立ち、キッチンへと体を運んだ。


「おい、大丈夫か?」


 その光景は何とも悲惨だった。

 何をどうしたらこうなるのか、ただ一つ分かったことはリナが料理が出来ないと言うことだった。

 リナは深い鍋に何も調理が施されていない鶏肉、人参、大根など、そのままの状態で煮込んでいた。

 あれだけの音を立てておきながらに、鍋周囲には包丁やまな板、それらしき調理道具は用意されてはおらず、三枚スープ皿が用意されているだけだった。


「待てリナ、随分と独創的な料理を作ってるな、それはなんていう料理だ?」

「これは野菜と鶏肉のスープだよ」

「おお、そうか、って納得できるか! 大根と人参が俺にはそのまま突き刺さってるように見えるぞ、俺の気のせいか?」


 自然を味わおう、なんてどこかで訊いたことがある。ただその鍋に詰められた野菜と肉。自然を味わうにはもう少し調理が必要だと思うのだが、それは俺の思い違いなのか?


「ほら、お腹いっぱいになって欲しいから、これならお腹いっぱいになるよね?」

「ならねぇよ、いやなるかもしれねぇけど、それは別の意味でお腹いっぱいになるわッ!」


 ちょっと貸してみろ、と調理を変わる。まずは鍋に詰まっていた野菜を取り出して、皮を剥く。皮を剥いた野菜を食べやすい大きさに切って鍋に再び投入。その間に鶏肉が上手くスープに出汁を出しているのを確認して、取り出し切り分ける。久しぶりの干し肉以外の肉に俺は喉を鳴らした。

 とりあえず、適当に用意された調味料で味を付け、最後に付近で採集した香り付けの葉を入れ蓋をする。

 慣れた手際をみたリナは、凄い、と口にする。


「おじさん料理出来たんだ」

「まぁな、少なくともリナよりはマシな物作れると思うぞ」


 むぅ、と頬を膨らませる。

 俺はキッチンから去っていくリナを横目に「案外女の子らしく可愛げがあるじゃねぇか」と小声を漏らす。すると奥の部屋からはロゼとリナの仲陸まじい雰囲気の二人の声が聞こえた。

 俺はその会話を聞き流しながら、一人黙々と料理を続けた。


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