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できそこない魔術師の師匠様  作者: 五月猫
一章 魔女狩り
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1-4 死霊魔法

 翌朝――ロゼの唸りで起こされた。

 どうしたものか、声を掛けてみるが、ロゼは気難しそうな表情でテントの入口を睨む。それから数分――よし、と立ち上がった。


「おいおい、起きたばかりで状況が掴めねぇんだが……どうした?」

「あ、君も起きたか、なに”囲まれている”だけなのだ」


 ぼんやりしている頭でも、しっかりと分かった。


「もしや、昨日の死霊魔法使いか?」

「うむ、テント周囲を〈アンデッドせる弓兵アーチャー〉に囲まれているのだ」


 俺は文句を口にしようとして、無意味なことを自覚する。ロゼの探索魔法によると、遠隔で死霊を操作し侵入者を俺達を狙っているらしい。多数の〈アンデッドせる弓兵アーチャー〉に囲まれたテントから顔を出すのは危険極まりない。


「どうしろってんだ、これじゃあ動けねぇじゃねぇかよ」

「それが奴らの狙いなのだ。こうしておけば私達は行動が制限される。つまりは邪魔をされずに目的を果たせると、言うことだ」

「いつまでもこうやってテントに長居するつもりか? 俺は冗談じゃねぇぞ」


 と、テントの入口に手を掛けた時、ロゼは苦笑した。

 そしてロゼは提案する。


「――では敵の策にはまるとしようではないか」

 


 ロゼの提案に賛成する気は無かったが、この状況で黙っているのも気が滅入る。渋々提案に乗った。


「では私が君に襲われている、と思わせる状況を作るのだ。身包みを剥がして外へでも逃げれば問題なかろう」


 乗り気ではない。

 それでもやるしかない、と覚悟を決め、ロゼの服を剥いだ。


「いやー、もう私にはこれ以上渡せる物はないのだ。どうか見逃してくれないか?」


 如何にもわざとらしい演技を晒す。どうみても演技と一目で気が付く。


「悪いな、渡すものがねぇってんなら、次はその体でも頂こうか」


 我ながらに恥ずかしい。

 思わず、不精ぶしょうな笑いが溢れる。だが、その笑いが状況を一変させた。〈アンデッドせる弓兵アーチャー〉は構えていた弓を下ろし、遠方で操っていたと思わしき少年が姿を現した。そして薄い布切れ一枚のロゼに優しく身に着けていたローブを肩掛ける。その行動は少年ながらに紳士的だ。


「大丈夫ですか? おい、そこの蛮人。このようなお綺麗な御方に淫らな真似を! その首今落としてやる」


 吠える少年の後ろで、ロゼはまたも苦笑した。


「やれるもんならやってみやがれ盗っ人がッ!」


 挑発を仕掛けると、少年は片腕を突き出して死霊アンデッド共を呼び出した。今度は近接特化の〈アンデッドせる剣士セイバー〉を操った。

 実に不愉快である。

 苦笑するロゼを見ながら、〈アンデッドせる剣士セイバー〉の剣撃を皮一枚でかわす。両側で一本ずつ長く伸びた黒髪の先が、剣に斬られ風を受けて舞う。

 こんなのどうしろってんだ。

 と、困り顔でロゼの方を伺うが、ロゼは首を傾げて「さあ?」と返す。無性に腹が立った。

 無抵抗で躱すだけだったが、反撃を開始した。


 

「クソガキがァッ!」


 死霊共の剣撃を躱し、死霊の操り手である少年に迫り、首を鷲掴みにする。宙に浮いた体で尚も抵抗をする少年。だが、次第に抵抗も収まる。


「僕が悪かったです、降ろしてください! 降参です!」


 案外呆気なかった。威勢の割りにそこらの戦士より手応えはない。上手く表現が出来ないが、こう、成り立ての魔術師感が漂っていた。真正直に相手にする気も失せ、手を離した。

 地べたに腰を付いたままの少年は、細い体を小刻みに震わせる。


「すみません、僕は、僕は……」

「おい、大丈夫か?」


 戦意喪失した相手、しかも子供相手にいつまでも敵意剥きだしでいるほど、俺は馬鹿ではない。それにここまで震え恐怖に怯えている姿を見ていると、過去の自分を見ているような懐かしさを感じる。だから、どうにも威嚇する気にもなれない。


「落ち着けって、もう俺は何もしねぇよ」

「僕は……命令されただけ……悪いのは僕じゃない」


 震える少年の肩に手を掛けると小刻みに震えていた体の震えは収まり、乱れていた呼吸が正常を取り戻す。


「俺の声は聞こえるな?」

「はい、聞こえますから僕を殺さないでください」

「殺しはしねぇって、とりあえず少し聞かせろ。誰の命令だ?」

「それは……。思い出せません」


 嘘を付いている素振りはない。どうやら事実のようだ。そこへロゼが割って入る。


「記憶管理、か」

「記憶管理? なんだそりゃあ」

「そのままさ、対象に対して、一切の記憶を管理する。生まれてからこの時まで全ては"その者"に筒抜けだ」

「それじゃあ今も……」


 うむ、と低い声で返す。

 敵は最初から俺達の行動を読んでいた。だから少年の記憶を管理し、死霊魔法を与え、俺達を探るべく襲わせた。全ては敵の手の上で踊らされていたこと。


「つまりはこのガキは使い捨ての駒。不完全な魔法で魔術師を襲うなんて馬鹿なことは教えねぇな。最初からここで捨てることを計算し、こいつに命じた」

「これで、私達の情報は漏らすこと無く相手に届いた、か。むしろ良かったではないか」


 なんでだ、と首を傾げロゼの顔を伺うと、


「隠す必要はなくなったのだ。なら私達も存分に動けるということだろう?」


 あぁ、と納得する。


「あの御方には勝てない……」


 黙り込んでいた少年が口を開いた。


「何故なのだ?」


 それにロゼが返す。


「だってあの御方は――狂ってるから」


 俯いて少年は顔を上げて、俺達を見つめた。

 その灰色の瞳はどこか恐怖を感じさせた。

 

 

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