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できそこない魔術師の師匠様  作者: 五月猫
一章 魔女狩り
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1-3 襲撃

 夜明けまで話し合いは続いた。

 朝日が顔を出す頃には俺もぐっすりで、ロゼも座りながらに寝ていた。目が覚めたのは昼前だった。ぼんやりとした顔に洗面所で冷水を浴びせる。冷たい水が顔に引き締まりを取り戻させる。


「ほう、中々に男前ではないか」


 うぉ、と変な声を上げ、振り返るとそこにロゼがニヤニヤと立っていた。

 起きていたのなら脅かすな、と忠告しようと口を開くと、その数秒先にロゼが声を出した。


「さすがはあの男、これは私好みだ」


 舐め回すように俺の顔から全身を眺める。美女にこうも眺められるといい気分とは言えない。

 ロゼは俺の後ろで結んだ髪を手に取り、頬に擦り付ける。どうみても変態でしかない。気色が悪いので、髪を力任せに振り、ロゼの手から離す。

 そして本題に入る。


「もういいか? 魔女狩りの話の続きを始めるぞ」

「うむ、それでなのだが、今日は何もしないでおこうと思う」


 はあ?と咄嗟とっさに声が漏れる。


「いや、それが得策だが、お前からそれ言うのには何かワケがあるな?」

「もちろんだ、今日は大人しくしていることで、私達に妨害の気がないことを示す。だが明日から本格的に動き出す予定だ」


 俺は少し思案しあんし、その提案に納得した。それにロゼは初めて訪れた港町に興味があるらしい。だから付いて来て欲しい、と頼まれたのだ。何もしないと言うのであれば暇となるわけだ、ロゼに付き合うくらいならいいだろう。

 俺達は適当に準備をして町へ出掛けた。



 丁度昼に差し掛かった港町。

 昼食のことを気にしてか、歩きながら目に止まるのはレストランが多い。それにロゼも、いい頃合いだ、なんて口にしている。

 ぶらぶらと町を歩いていると、串焼きの露店から流れるいい香りに足を止められた。海で獲れた新鮮な魚の串焼きに、貝焼き、祭り事で目にする品が空腹の腹に刺激を与えた。

 二人分俺からみて美味そうな物を買い、ロゼが待っているベンチに向かう途中、持っていた串焼きを一本奪い取られた。


「おい、クソガキがッ!」

「どうしたのだ?」

「串焼きをガキに盗られたんだよ、ったく油断ならねぇな」


 これだからガキは嫌いだ、と言い掛けて、ロゼが手に触れる。

 突然とはいえ手を握られるとドキッとする。


「子供はあっち方だな」


 呆然としている俺を見て、ロゼは顔の前で手を振る。


「あ、そうだな。行くぞ!」


 串焼きを取って逃げた少年の後を追うように町を駆け出した。


 逃げた少年の後を追い、町外れの森に入った途端に異様な雰囲気に包まれた。

 すると俺達の目の前に屍が五体、剣を握って現れた。


リビングけるデッドか、あのガキはそうすると敵の仲間か」

「うむ、であれば尚更逃がすわけにはいかないのだ」

「おう、それじゃあ軽く……燃えろ」


 燃えろと命じ、敵は業火に包まれる。


「ほお、短縮詠唱か、やるではないか!」

「短縮詠唱とはちと違うがな」


 魔法とは詠唱を必要とし、詠唱をすることで魔法威力を高める。だが、俺の場合、詠唱が上手く出来ない。ただ何か言えばいいってもんじゃない。詠唱とは具体的なイメージがなくては発動ささらない。火炎魔法で言えば、何かを燃やすイメージ。その両立が出来ない俺が覚えたのが『擬似短縮詠唱』だ。

 燃えろ、と唱えれば、物は燃え、消えろと唱えれば、火は消える。イメージを必要としない詠唱法。


「燃えろッ!」


 無数の屍は業火によって、魂が抜け、無となる。魂が抜け落ちた屍に動く意思はなく、ガラガラ、と骨がぶつかり合う音だけが響いた。

 後方で俺の魔法をじっくり観察していたロゼは、見事だと褒めた。


「それよか、さっきのガキがこんな真似を?」

「それも外してはいない、ただ死霊魔法を扱うには少々手が掛かる。小僧一人で死霊魔法を扱うにしても、何かしら支援が必要なのだが、これも背後に隠れた奴の仕業か、それとも小僧の意思なのか……」


 死人に口なし。最も死人ではなく、そこあるのは屍だ。


「深追いは吉と出るか凶と出るか」

「まぁいいんじゃねぇか?」


 言っておきながら、実に気の抜けた返事だ。

 それを訊いたロゼはカラカラと笑う。


「君がそう言うのなら進もう」


 深々と生い茂る森の風は、どこか邪気を含んでいた。


 

 森へ迷い込んでから、少しのときが流れた。

 丁度昼を過ぎた頃に森へ入ったのだから、精々、夕刻前だろうと踏んでいたが、気が付けば空は漆黒に覆われていた。


「ふむ、これでは目が回らないのだ」


 ぼんやり空を眺めてロゼは呟いた。それには俺も同感だ。

 こうも暗くては視界が悪い。それに夜間となると敵も好機と捉え、罠を仕掛ける可能性もある。下手な行動が命に関わるってのはどんな状況でも変わらないことだ。

 俺は手持ちの食料と簡易テントをバッグから取り出し、開けた場所でそれを張る。


「しょうがねぇ、今日はここで野宿ってことでいいな?」

「よかろう、それに野宿なら手慣れた物だ」


 慣れるなよ、とツッコミを入れ、テキパキと食事の準備をする。こうなることを見越してではないが、変な勘が働いて食料はそれなりに買い込んでいた。付近に散らばっていた枝木を集め、山の様に重ねて火を付ける。こう楽に火を付けれると、改めて魔法の偉大さに気が付く。

 そんなとき、ふとロゼは尋ねた。


「君はどんな魔法が使えるのだ? 師匠になる上で必要な情報だ」

「火炎魔法くらいだ、後は試してはみたがどうにも合わなかった」


 過去に氷冷魔法も試したことはあった。けれど『擬似短縮詠唱』でも使えなかった。それ以来、火炎魔法以外に覚えようと思うことをやめた。


「では一つ私から君に――」


 事あるごとに俺の手を両手で握るロゼにもうドッキリなんて感情は無くなった。それくらいにロゼの顔を見慣れた。美女も見慣れてしまえば普通だな、と思う。


「私の魔力を少し込めた指輪だ。祈りで君を守護する」


 銀色の指輪は炎の明かりで眩く光る。


「いいのか?これお前が身に付けていた物だろ?」

「それは元は君の主が私に贈った物だ。たしか……『その指輪に祈れば、俺はどこへでもすぐに行く』と言われた。まったくの馬鹿者だよ」

「……っふ、それには同感だ」


 火を囲い話をしていると、孤独感が紛れる。

 ロゼと話を交えているうちに、色々聞かされた。主はこうだった、元は優しかった。

 俺の知る主とは掛け離れた存在だった。


「さて、そろそろ寝るとしよう。美しさを保つには寝ることが大事なのだ」


 話す事も話し終えたロゼはどこか楽しげにテントの奥へ姿を消した。

 



 


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