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できそこない魔術師の師匠様  作者: 五月猫
一章 魔女狩り
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1-2 魔女狩り

 俺はロゼが示した方へ進み森を抜けた。

 薄暗い森を抜けると眩しい光が目を刺激する。手で光を遮り、まぶたを薄く開く。


「それでお前の目的に俺は付き合わされているワケだが……」

「何、少しばかり前から行ってみたいと思っていた街がこの先にあるのだ」


 そういうロゼの姿をみて、少し言うべきか躊躇する。

 何も気にしていないのか?

 さっき地面に敷いたマントを普通に羽織り歩く綺麗な男と汚れた女。組み合わせが少々よろしくない。大抵は男のほうが汚れているはずだ。


「街に着く前にそのマント脱がないか?」

「どうしてだ? こうも日差しが強いとマントは必要だ」

「それは分かるが、汚れてるからなぁ――」


 なら、とロゼは俺のローブを奪い取る。そして代わりに、と自分が羽織っていたマントを手渡す。たしかにこうすれば組み合わせは逆転し、特に変わった様子はない。


「それは好きに使っていいぞ。女が付けていたマントに興奮するやからがいることは承知している」

「そいつらと俺を一緒に見るな。こんな汚れたマントいるか!」

「微かに良い香りが残っているのだが……」

 ふんわりと風に乗せられて、甘い香りが鼻を付く。

「だからって興奮はしねぇよ」

「そうかなら仕方ない」


 そうこう話しているうちに港町に辿り着いた。



 港町ストックポート。

 アリーゼコルナ共和国の東に位置する港町。珍しい魚が市場に並ぶことで有名な町。それに加えてもう一つ。


「魔女と人間が共存する町。それが港町ストックポートだ」

「それは珍しいな。魔女を毛嫌いする人間が共存するなんてな」

「まぁ、お互い協力関係だからな。魔法によってこの町は栄えている。電気一つにしてもそれぞれの家で扱う火にしてもだ。その代わりに人間からは魔女がこの町に住むことを許可している」

「だがよ、本当に町の住人は魔女を快く思っているのか?」


 それが問題なのだ、とロゼは言う。

 ロゼがここに来たがった理由はそれだ。表向きは共存している、と言っているが、裏では何か表に出せないような隠し事があるのではないか。

 そう睨んでいた。


「噂程度なのだが、最近よく港町に魔女の死体が流れ着くらしいのだ。それも一週間に五人ほど、それがどうにも不思議でな」

「人間の死体はなく、魔女の死体だけが流れ着く。確かに不思議ではあるな」


 魔女は塩に弱く、海に近づくことはない。

 それなのに海から死体が流れ着くのは不自然である。誰かが意図的に死体を海に捨てたとしか言いようがない。


「まぁ、私の憶測だからな、確かなことは言えないが、この町は何かを隠している」



 町に入ってから少しロゼと散策し、調べたいことがあるとロゼは一人どこかへ行った。残された俺は特にやることもなく、ぶらぶらと市場を歩いていると、どこからともなく悲鳴が聞こえた。


「……あっちか」


 悲鳴が聞こえたほうへ駆け出す。そしてそこへ辿り着くと死体があった。恐らく魔女であろう。


「やはりか……」


 そこへロゼも現れる。


「これは私達への警告だろう」

「なぜだ?」


 そこを、と流れた血の行方を追うと、手に描かれた紋章と同じ紋章が描かれていた。嗚呼、と納得する。


「血の警告、つまりはこれ以上進むとこうなるぞ、と警告しているのだ」

「それはやばいんじゃねぇか?」

「そうだが、私には君がいる。君にだって私がいる。心配する必要はどこにもないだろう?」


 心配しかないだろう、と呟く。魔女がこうも容易く殺されているのに、安心して町を歩くことが出来るはずがない。いつ自分の首が狙われるかおちおち夜も眠れない。不眠症になったらどうするんだ、と怒鳴るが、あっさりと、安心するのだ、と返された。

 どう安心すればいいのか、今も付近でこちらの様子を探っている可能性も少なくはない。あまり野暮なことに手を出すのは本能が拒否反応を出す――行くな、と。


「俺はこれ以上この件には関わりたくねぇが、ここで降りるのはアリだよな?」

「ナシだ」


 即答した。


「危ない橋は渡らねぇ主義の俺がこれ以上付き合うと思うか?」


 叩いて壊れる石橋があるなら、別の橋を渡るし、食べて毒があるのなら、食わずに他を探す。そうやって生き延びてきた。危険から逃れてきた俺にとって、それらを察知する能力があるってわけじゃないが、勘が働く。そこは危険だとな。


「君は逃げようにも逃げられないさ、ほら……」


 ロゼは蒼穹そうきゅうを見上げて、それ(・・)に気が付いた。

 薄く緑膜りょくまくが町を包んでいる。それを見て俺は思案する。魔法で監視している証拠だ。


「分かった、どうせ逃げられねぇんだ。お前に付いて行くしかねぇな」

「それでいいのだ。では簡単な情報収集と行こう――何より必要なのは情報だ」


 美しい顔に似合わない、気味の悪い笑顔を覗かせた。



 すれ違う町人にこの町のこと。

 魔女のこと。

 最近起きた不可思議な出来事を尋ね回った。

 その結果から一つの推測が立てられた。


「裏で人間による魔女狩りが行われている。人間とは不必要な物は捨て、必要な物だけを残す。つまりは魔女から必要な物、この際は電気、炎、生活上において人が必要とする物を全て搾り取り、不必要となった魔女を呪いを恐れてか海に捨てている」

「それと魔女狩りにどう関係があるんだ?」


 狩り、と言うには少し事情が合わない。


「魔女狩りにも種類はある。魔力を全て使い果たした魔女なんてのは死んだも同然、それも立派な魔女狩りと言えよう」

「じゃあその魔女狩りを止めさせるってか?」

「それも一つの解決法だが、それでは完全な解決には至らない。魔女がそう簡単に魔力を無抵抗で差し出す程、頭の悪い奴らではないのだ」


 魔力を差し出すことは死ぬことと変わらない。これまで数回魔女と出会ったことはあるが、たしかに頭の悪そうな奴は一人も居なかった。勝手な憶測だがな。

 と、なると。


「人間側に魔法に心得のある者か、魔女を圧倒する力を持った何者かがいる、とでも言いたいのか?」

「そうだ、そして恐らくそれは我々魔術師とは別の存在だ」

「魔女は俺達の敵だからな、どうも苦手だぁ」


 港町の宿屋につくまでに幾らかの推測を立て、それを二人の意見で正解へと進ませた。だがどうにも答えが見えない。話をしている内に宿屋の前に到着していた。


「……まぁ、続きは中で話すとするのだ」


 ロゼの意見に賛成し、借りた宿の一室に向かった。

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