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できそこない魔術師の師匠様  作者: 五月猫
一章 魔女狩り
11/11

1-11 師匠

 魔女と向かい合うようにロゼは構えた。


「まず魔法とは何だ?」


 俺にロゼは訊く。

 

「魔法は力だ」


 いや――とロゼは否定する。ならば魔法とは何だというのだ。

 出来損ないが唯一得た力。

 それをロゼは全面から否定する。


「魔法とは強さだ。何者にも恐れない絶対的な強さ。君とて魔法を脅しに使ったことはあるだろう?」


 確かに、そういった使い方はしてきた。だが、強さであるなら、それは力であるはずだ。力があるから強い、そうでなければ不自然だ。

 構えたロゼに俺は否定の言葉を掛ける。

 それは同じだ、と。


「君は力=強さ、と思っているのだろうな」

 

 まぁな、と返す。

 実際そうであって、そうでないはずがない。


「私が言いたいのは魔法とは強さ、それも心の強さだ。君は〈出来損ない〉と罵られて生きてきた、その中で心を強く持ったはずだ、優れた者に並ぶために折れない心の強さを。その心を持ち得たからこそ、魔法という奇跡の対価を得たのだ」


 思い出すだけでも苦しい日々だ。出来損ないと何度罵られたことか、その度に俺は笑みを浮かべ精一杯謝った。常に思うのは「立派な魔術師になりたい」それだけだった。だから苦痛に滲む魔術訓練に耐えたのだ。

 最後には嫌気が差して逃げ出したがな。


「純粋だったんだなあの頃は……」

「うむ、今では純粋さは欠片も残ってはいないのだ」

「うるせぇ、一々余計なんだよ」

「さて、君も我を取り戻したみたいだ、ここからは実践だ――魔女よ」


 退屈そうにこちらを伺う魔女。

 ようやく終わったの? みたいな表情が実に気に入らないが、その顔も見納めとなると清々する。

 ロゼは大きく息を吸って、優しく吐く。

 

「まだか、まだか、と待ち遠しかったですわ」

「君には私を攻撃する隙があったのだ、それなのに手を出さなかったのはどうしてなのだ?」


 魔女はご機嫌そうに笑い。丁寧に質問に応答する。


「余裕ですわね。隙をついて消そうなど人間の所業ですわ、まったく不愉快ですわね」

「そうか、では待たせたことへのお詫びなのだ――〈冷氷フリーズ〉」


 広げられた手から溢れた魔力が、冷気を放ち森全体を氷の世界へ変える。伸びた氷は魔女の体を瞬く間に凍りづけにする。


「砕け散れ――〈崩壊デストロイ〉」


 短縮された詠唱から放たれた魔法は、魔女を閉じ込めていた氷を盛大に壊す。その様子を眺めていた俺は呆気に取られた。

 ロゼが今見せたのは、俺が苦渋の末に身に付けた詠唱法――擬似短縮詠唱だ。


「おま、なんでそれを!」

「私は見た魔法、詠唱など、全てを記憶し使用することが出来るのだ。この私にかかれば君の詠唱法も容易い」

 

 噂には訊いたことがある。他国に天才的な魔術師が存在すると。

 その者は見たものを己の物とし、絶対的な強者を薙ぎ倒す者――その名をローゼリット=エインズ。

 はっと、名前を言い返すと、ローゼリット、ロゼ、似ていた。

 

「お前が天才ローゼリットか」

「如何にも、私はローゼリット=エインズ。弱気者への救済者として知識を与え、力を与える」

「そんな奴と、主が知り合いだったとはな」

「以外であろうな、何せ偶然の出会いだったのだ」


 俺とロゼが会話を交えていると、奥で息を整えた魔女が、影へと姿を消して、ロゼの背後から姿を現した。話に夢中で背後に気を配っていないのか、ロゼが魔女に気が付く気配はない。魔女はそれを好機と捉え、渾身の一撃を振るう。

 拳のような形へと変わった黒色の翼は、ロゼを潰そうと襲いかかるが、直前でそれは阻まれた。

 翼の動きを止めたのは――人間の拳だ。

 俺に見えたのは拳で、それも見慣れた奴の拳。

 

「これで貴方がたとの借りは返させてもらいましたよ」


 颯爽と現れた神官に思わず見惚れてしまった。


「神官か、これは助かったのだ」

「いえ、ですが助かったかどうかは、此処から先で決まりますね」


 神官が危惧したのは、恐らくそこにいる魔女の分身が何か見せたのだろう。そしてそれを目の前の魔女も扱える踏んだ上での忠告。

 破れた神官服をみるに、相当激しい戦闘を交えていたらしい、と見受けられる。

 

「あら、わたくしの分身が見事に壊されたようですわね」

「少々手を煩わされましたが、どうにか」

「あぁあ、何て耳障りなのでしょう。魔術師ならばまだ良し、ですが人臭い神官など所詮そこらの人間と変わらないではありませんかッ」

 

 魔女の猛攻。

 翼がロゼと神官を襲う。強風を巻き起こし、かまいたちを作り二人を襲っていた。二人はかまいたちを防ぎつつ前進するが、魔女はまた影へと姿を消した。


「魔女よ、些か同じ手を使いすぎているのだ」

 

 そう言ったロゼの背後から魔女は姿を現した。そして同じような行動をみせる。そこへいつからかその背後に回っていた神官が、連撃を与えた。

影の中から出た魔女は、驚きを隠せないようで、焦りが顔に現れていた。それもそのはずだ、切り札ともいえる技を、二人に見破られたのだから。


「まったく、貴方は恐ろしい方だ」

「神官を信じていたのだ。そして前の戦いでこれの破り方をしっていると思ってな」

「こればかりは負けました」


 では、と神官は魔女にとどめを刺しに動く。が、そこへ、ぼろぼろの肉体で両手を広げ魔女を守ろうとする人影が見えた。

 俺はそれに目を見開いた。

 魔女の前に立ったのはリナだった。

 何故魔女を庇おうとするのか、理解できない俺達にリナは答えた。


「僕は母さんじゃなくても、僕を頼ってくれた人を裏切れない」

「リナ! そいつはお前に恐怖を与え、言い様に使っていただけなんだぞ!」

「知ってるよ、それは僕が誰よりも分かってるけど、母さんのように苦しむ人を見捨てられない。あのときに母さんが見せた顔をもう二度と見たくはないんだ」


 それは叫びだった。

 リナは訊いていたんだろう。そして本来の記憶を取り戻した。だが、そこにいる魔女に情が湧いて助けた。

 全く都合のいい奴だ。


「おい、ロゼ、神官、もう止めだ」


 自分が何を言っているのか分かっている。 

 けれど、朽ちゆく肉体でなおも守り続けるリナの姿に俺は負けた。


「うむ、君が言うのなら手を引こう」

「私は従う通りはないですが、この場で一人暴れるのは場違いですね。いいでしょう手を引きます」

 

 俺達は静かにその場を離れた。

 もう魔女に力は残っていない。今更何かしようとして返り討ちに合うだけだ。それにあそこにはリナがいる。

 なら心配はいらないな。


 そっと吹く風は、港町に澄んだ空気を運び、静まっていたストックポートに再び賑わいを取り戻させた。

 


 それから数日、あの後どうなったかは知らないが、魔女が港に流れてくることはなくなったらしい。

 それを聞いた神官も事が済んだとのことで、港町を去って行った。元々敵同士なわけだったので見送りとまではいかないが、軽く挨拶だけはした。

 リナはというと、死ぬ間際に魔女によって魂を別の肉体へと移し替えてもらい、今も元気に過ごしている。魔女は己の過ちを理解し、償うために自らの力を捨て、一人の人間として町で過ごしている。

 今ではリナと二人親子ということで、仲良く暮らしているそうだ。


 俺とロゼはそれを聞いて二人して事件解決を心から喜んだのだった。



 


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