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報告の続き

 塔長は何も言わなかった。ただ、ユレイオンの目を見つめていた。

 ユレイオンはこの不毛なにらめっこがいつまで続くのだろう、と塔長の視線を受け止めながら思った。

 聞いてはいけないことだったのかと思いはしたが、気が付かなかったふりをするべきでない案件だろう。ファローンのことなのだから。

「お前たちのいない間にクロンカイト王が来たよ」

「はい」

「お前たちと一緒に任務で出ていると言ったら怒られてしまってな」

「そうでしょうね」

 ユレイオンはうなずく。最も安全だと思っていたから塔に預けたのだろうから、王はその期待を裏切られたと取ったのだろう。

「ファローンの護衛に魔術師をつけたようじゃ。モントレーの館に罠が仕掛けられているのを知って、緊急避難的にさらったのじゃろうな。詳しくは聞いておらんが」

「では、それがあの黒魔術師だったと」

「かもしれんの」

 塔長はこういう時、断定的な物言いをしない。食えない爺だと相棒はよく口にするが、ユレイオンもそれには同意する。

「ではもう一つの方は」

「ああ、奴はわしの同期でな。セゼルという」

 さらりと塔長が答えたことに、ユレイオンは驚きを隠せなかった。

「黒魔術師が……ですか」

「図書館の禁呪の書に手を出して、放り出された魔術師の話ぐらいはお前も聞いたことがあるじゃろう?」

「はい」

「奴はわしより優秀じゃった。あんなことがなければ今ここにいたのは奴じゃったろうのう」

 ほっほっほ、と塔長は笑いながらも目は笑わない。これ以上は聞くな、と言っているのだとユレイオンは理解して視線を外した。

「まあ、そういうことじゃ。……で、セゼルは地の聖獣の依代を持っておるのじゃな?」

「はい」

「ユレイオン。……シャイレンドルに何があった」

 ぴくり、とユレイオンは身じろぎした。

「フォートの魔術師から報告が来ておる。お前たちが街に現れる前、北の方角で巨大な力が振るわれた、と。地の王と戦ったか?」

「……はい」

「やはりそうか。……ユレイオン、これをしばらく身につけておきなさい」

 塔長は机の引き出しから小さなブローチのようなものを取り出した。光る石が埋め込まれたそれは、闇祓いの意匠が刻まれた護符だ。塔長は手ずからそれをユレイオンのローブにつけた。途端に石は光を失い、濁った。

「やはりのう……。フォートの治癒師からも連絡が来ておっての。お前とシャイレンドルに闇がまとわりついておる、と。地の王からの攻撃をうけたのであろう?」

 ユレイオンは答えに窮した。それを肯定と受け取って塔長は言葉を続ける。

「地の王の力は聖でも邪でもない。じゃが、ずいぶん闇に偏った力を使ったようじゃな。まだ闇がこびりついておる。その石が元の光を取り戻せるまでは、塔から出ぬように。それにそなたもまだ本調子ではあるまい? 顔色も悪い。当分の間は休養に宛てよ」

 ユレイオンはブローチを見下ろした。

「分かりました。……あの、ファローンの訓練程度なら大丈夫でしょうか?」

「いや、それもしばらくはよい。セインで教えられる内容を先にしよう」

「わかりました。……シャイレンドルにも同じものを?」

「いや、あの冠石があれば大丈夫じゃろう。……地の王を退けたならば、石が割れても仕方があるまいのう」

 ユレイオンは黙り込んだ。

 次の審神で位が上がるのは間違いない。もしかすると、始祖以来初めてとなる金位の魔術師にだってなれるかもしれない。――シャイレンドルなら。

 あの力を身を持って知っている自分がそう思うのだ。……ならないはずがない。

「よいな、ユレイオン」

 思考を遮られて、ユレイオンは顔を上げた。塔長の目はいつもの柔和な光が戻っている。

「今は自分の体のことを考えよ。そなたが思うよりそなたの体は疲弊しておる。ゆっくり休め」

「はい……」

 頭を下げ、部屋を出ていく。

 本当はいろいろ話さなければならないことが一杯あったはずなのに、一歩足を進めるごとにぽろぽろと脳裏からこぼれていく。

 ――ああ、これは、私は疲れているのか。

 かつて一回だけ、こんな状態になったことがあったな、と足を引きずりながらユレイオンは思った。あの時も原因はシャイレンドルだった。

 ――昔からあいつには振り回されてばかりだ。あの時も、今回も。

 口元が緩むのを感じて、ユレイオンは手で口を覆った。

 部屋にたどり着き、扉を開ける。主のいない真っ暗な部屋が、主の帰還で活動し始める。部屋の明かりが灯され、オレンジ色の火が揺れる。

 それを視界に納めたところで、体が言うことを聞かなくなった。足が一歩も動かない。

「つかれた……な」

 目を閉じたところでユレイオンの記憶はぷっつりと途切れた。

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