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ユーフェミア

 ろうそくの黄色い灯りが揺れる。

 茶と菓子の乗ったワゴンが運び込まれ、紅茶の香りが部屋を満たしていく。

 ウェルノールはカップに口をつけつつ反対側のソファに座る婚約者を見つめた。最後に会った時に比べて顔色が悪い。頬を薔薇色に染めているのはおそらくウェルノールの視線を感じ取ってのことだろう。目の周りに泣いた痕が見える。

「ユーフェミア、しばらく臥せっていたと聞きました。体の調子はもうよいのですか?」

「え、ええ。だいぶ良くなりました。ごめんなさい、ご心配をおかけして」

「いいのですよ、あなたの顔が見られてよかった」

 ふんわりと微笑むと、婚約者はさらに頬を赤くする。

「そういえばお父上と喧嘩でもなさったのですか? ずいぶん嫌われてしまったと落ち込んでいらっしゃいましたが」

「それは……」

 ユーフェミアは表情をこわばらせ、視線を手の中のカップに落とした。

「最近のお父様が怖いのです。……お父様が考えていることが分からない。わたくしはどうしたらいいんでしょう……」

「そうだろうか?」

 銀の公子は微笑みを浮かべた。

「お父上はユーフェミアのことを大切に思っていらっしゃる。それは今も昔も変わらないでしょう?」

「え、ええ……でも……」

 ちらりと窓の方を見やる。窓は深紅の分厚いカーテンで覆われ、外の光は入らない。ウェルノールはソファから立ち上がり、カーテンの隙間から外を見た。

 鎧に身を包み、槍を手に館の周りを警護する兵士たち。先日この館を訪れた時には見かけなかった光景である。

「ユーフェミアのことが大事だから、誰にもやりたくない。そう思っていらっしゃるのでしょう。私としては――困ったことなのだけれどね」

「え……?」

 ウェルノールはユーフェミアの隣に腰をおろし、彼女の薔薇色の頬にそっと唇を寄せた。

「ウェルノール様……?」

「だって、そうだろう? お父上はユーフェミアのことが大切で心配でしかたがないのだよ? ユーフェミアを誰にもやりたくない――たとえ婚約者であっても。もしそうならば、私がこうやってユーフェミアとともに時を過ごしていることもお気に召さないのではないかと」

「そんな……ウェルノール様までそんなこと、おっしゃらないでください……」

 ユーフェミアは潤んだ瞳でブルーグレイの瞳をじっと見つめた。

「わた、わたくしは……」

「目を閉じて」

 ウェルノールの言葉に導かれるようにユーフェミアは目を閉じた。

 唇を重ね、右腕を背に回してやんわりと抱きしめる。長いくちづけに身を震わせるユーフェミアの手がウェルノールの上衣を握りしめた。

 唇を離した時にはユーフェミアの息は浅く、目を閉じたままウェルノールの胸に寄りかかって気を失っていた。

 ウェルノールは彼女をソファに横たえ、頬にかかる銀の髪をそっと払いのけてキスをした。

「そのまま眠っていて下さい、ユーフェミア姫。――決してあなたを悪いようにはしませんから」

 テーブルにおいた香炉をちらりと見て、ウェルノールは立ち上がった。

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