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フォート

 城壁の上まで来ると、煙は西の門から上がっているのが分かる。四角い町の四隅にある塔は鐘を備えており、一定のリズムでうるさいほど鳴り響いている。

 都市国家同士の取り決めとして、どこかから攻めこまれた場合は鐘を打ち鳴らすことになっている。攻撃を受けていることを鐘の音に乗せて近隣都市に届くように、だ。

「他所からの鐘の音も聞こえるな」

 音程の違う鐘の音。ラナリアとフォートの間の街の鐘。ということはまだ陥落していない。同時侵攻しているのだろう。

「しっかし、無駄な攻撃してんなぁ。フォートの守りは鉄壁やし、子飼いの魔術師が上空にも防御壁展開しとるんに、各個撃破じゃ力押しで負けるのはわかりきっとる思うんやけどなあ」

 シャイレンドルは街全体にかけられている虹色の魔法を眇め見る。

 ユレイオンはうなずく。煙が上がっているのはむしろ攻撃を仕掛けた側――城壁の外側からだ。

 予め準備してあれば、町人の被害もゼロでいけるだろう。

「本当にファローンはここにいるのか?」

「ああ、おる。――煙の方へ向かっとるな。ここからならお前でも判別可能みえるやろ?」

 言われてユレイオンも目を細めて街を眺める。

 ファローンの気配は旅の間で個別認識できるほどにはなっていた。それと一致する気配は確かにある。

「じゃ、行くか」

「ああ。……って、この結界ぶち割るつもりか?」

「え? まずいか?」

 ユレイオンは頭を抱えた。

「まずいに決まってるだろうが! 防御壁を張り直す前に攻撃食らったらひとたまりもないだろうがっ」

「いや、だから外の部隊を殲滅してからのつもりやったんやけど」

「……それを先に言えっ」

 二人を載せた風の精霊達は都市をぐるりと大回りして、敵陣の後方に回りこむ。

 そこにはまだ大砲が二機健在で、時折ズドンと音を上げている。守りは硬いが攻撃の手段が少ないフォートからは城門の上から弩や弓で反撃しているが、大砲を潰せるだけの力がないようだ。

 大砲の守りに二個小隊がいる。その後ろには開門を待ちわびる騎馬と歩兵の群れ。

「じゃ、わいは大砲なんとかする。ユーリは騎兵と歩兵頼むわ」

「……わかった」

 風の精霊を解放して地上に降り立つと、二手に分かれて走りだした。



 後ろからの不意打ちに歩兵たちは陣を乱して逃げまわる。砂嵐やゴーレムを繰り出して騎兵を馬から追い落とすと、馬も散り散りに逃げ去った。

 相手が魔法使いと見ると、後方の兵士たちも武器を放棄して逃げ出した。

 陣の前方で派手に爆発が起こる。振り向くと、大砲が木っ端微塵に吹き飛んだようだ。上空に相棒がすべりながら楽しそうに笑っているのが見える。

「ユーリ、こっちはもうええで」

「こっちもだ」

 名前につっこみたいところだがそれどころではない。

 逃げ惑う敵兵を避けて城門へと取り付く。相棒と合流して風に押し上げてもらうと、整然と並んでいた敵兵たちはほぼ潰走、大砲は二機とも大破しているのが確認できる。攻撃の意欲ある者はおらず、脅威は去ったと言っていいだろう。

「ところでこいつら、どこの手の者や?」

「武具も揃いではなく寄せ集め、兵士の質もばらばらで脆弱。おそらく傭兵を募ったのだろう。ただ、騎兵だけは正規の兵士だったようだな。着ていた鎧の紋章に見覚えがあった」

 ユレイオンは目を伏せる。予想通り、ラナリアとモントレーの紋。

「モントレーか。しかし、なんでこないなことになっとるんや。都市国家同士は仲が良かったんちゃうんかいな」

「本来はな。おそらく、モントレーが動かざるを得ない何かがあったんだろう」

 その理由がまさか自分の兄とユーフェミア姫との婚約ではないだろうな、と眉根を寄せる。

 そんなことで挙兵して他の都市国家に攻め入るのがどれほど悪手であるか、長年都市国家の盟主を務めるモントレーが知らないはずがない。

 城壁の上の兵士たちに動きがあったようだ。こちらを見て声を上げている。

「シャイレンドル、城壁の前につけてくれ。門を開けてもらう」

「了解っと」

 二人は今度は城門の前に降り立った。

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