黄色い気配
「本当にこっちであってるんだろうな!」
シャイレンドルの操る風にのって空を飛びながら、ユレイオンは叫ぶ。
「ああ、間違いあれへん。あの石の気配はあの町から出とる」
「だが、石自体は地の王が持っていたんだろう? なぜ気配が二つある」
「さぁね」
とシャイレンドルは肩をすくめた。
「わからん。わいが預けた後、肌身離さず持ってたんとちがうか? だから気配が移ったとか」
「馬鹿を言え。そんな話、聞いたこともない」
ユレイオンは眉を寄せた。
そもそも自分の冠石のついたサークレットを他人に渡すこと自体ありえないのだ。そんなことを試した魔術師は皆無だろう。――シャイレンドルを除けば。
それにしても、とユレイオンは思う。
あの力は何だったのだろう。
先ほど見た、地の王と対峙した時の猛烈な力の流れ。地の王と同じ――善とも悪ともつかない、純粋な力。呪文も魔法陣も用いず、手を伸ばすだけで力を迸らせた。
自分に向かってきた力に、なすすべもなかった。何をしても無駄だろうと思わせるほどの力。とっさに壁を作らなければ死んでいた。
――あの時のおまえは、俺を殺そうとしたわけじゃなかった。ただ単に「煩い」と思っただけ。それでこの有り様だ。
自分の体を見下ろして、ユレイオンは自嘲の笑みを浮かべる。血止めだけはしてある。骨も幸い異常はない。
――奴が正気に戻ってくれてよかった。もう一ラウンドあったら、確実に死んでいた。
極めつけがあの石だ。
相棒の手首にまとわりつく金の鎖をちらりと見る。その先端にあったはずの黄色い石は枠だけを残して消えている。
石が砕けた。
それが何を意味するのか、知らないユレイオンではない。
――どれだけの力を隠しているのだ。あいつは。いや……俺は知っていた。あいつが俺を凌ぐ力の持ち主だと。いつも審神を嫌ってその日になると姿をくらましていたのを。同列の銀二位だと言われながら、俺は同列じゃないことを知っていた。
「なあ……ユーリ」
「……その名で呼ぶな」
相棒にいつものツッコミを入れる。
「これ、適当に石はめ込んで誤魔化せへんかな」
「……無理を言うな」
どんな石を入れたところで露呈しないはずがない。一目見れば分かるものだ。それに、サークレットそのものが石を受け入れないだろう。
「じゃあ、失くしたことにすっか」
「おまえなあ……」
苦虫を噛み潰してユレイオンは答える。
――その石が割れずに辛酸を嘗めてる人間がどれだけいると思うんだ。……俺も含めて。
「……さっさと銀一位になっちまえ」
ぼそっとユレイオンはつぶやく。相棒に聞こえない小さな声で。
「めんどくせぇ……」
シャイレンドルもぼそっと呟く。自分の声が聞こえたのだろうか、とユレイオンは眉を寄せる。……まさか、な。
「……馬鹿言ってないでスピード上げろ」
「へいへい。まあ、ファローンのことだ、大丈夫だと思うけどな」
ユレイオンの機嫌がさらに悪くなったことに気がついたのか、空を滑るスピードが上がった。




