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「まったく、どこのお坊ちゃんか知らないけど、自分の身は自分で守りなさいよ」

 表の扉を閉めると、赤い髪の女は眉を潜めてファローンを見た。

「す、すみません」

 ファローンは身を縮こめる。その様子をみて、女はさらにため息をついた。

「で、なんでこんな時にこんなところにいるわけ? いいとこの坊ちゃんが」

「それもよくわかってなくて……あの、ここはどういう町ですか?」

「フォートよ。この辺りの都市国家の中じゃ小さいほうだけど」

 フォート。たしかに、今回の旅行の際に立ち寄った町の名前だ。西から数えて二つ目の街道沿いの都市。

「まあ、昔はここに城塞があったって話でね。砦としての機能は都市国家一だから、そう簡単には落ちないけどね。どこの馬鹿が仕掛けてきてるんだか」

 ファローンは不安を隠せずに扉の外に目をやった。

 煙は上がっていた。傭兵らしき人もいた。どの旗印だったかは見えなかったが、もしこれが西の……王家の旗印だったら。

 実にまずい場所にいることは明白だ。

「あの、どことどこが戦っているんですか?」

「聞きかじっただけだけど、どこかの都市が他の都市に喧嘩ふっかけたって話よ。ここらの都市国家は同盟をを結んでるはずなんだけどねえ」

 西の軍でないと聞いてファローンはほっと胸をなでおろす。

「同盟?」

「そう。ここらへんはリムラーヤでも特殊な地域でね。今の形で王国が統一する随分前から街道沿いに都市が独自に発展してね、そのまま都市国家として成立してたからね。都市間での連携をとることで、都市国家としての利益を守ろうとして同盟関係を結んだって話。山脈で本国とは断絶してるし、リムラーヤが山越えしてこの辺り一帯を支配するようになったのは最近なのよね。だから、都市国家同士が戦っても、リムラーヤが喜ぶだけなのに」

 前々から独立の噂だけはあったんだけどね、と煙管をふかして、女は続ける。

「ところで坊やはどこから来たわけ? 三日前に戦闘が始まってから町の門は閉ざされてるはずなんだけど」

「よくわからないんです」

 ファローンは素直に答えた。

「目が覚めたらこの街にいて……ラナリアのモントレー様のお館にいたはずなのに」

 すると女は鼻を鳴らした。

「ああ、そうそう。ラナリアだわ。戦闘ふっかけてきたの」

「えっ」

 ファローンは記憶をたどった。ラナリアの町ではそんな様子はまったくなかった。戦闘が始まって三日前、とこの女性は言った。その話が正しいとするならば、モントレーの館で記憶が途切れてから三日以上は経っていることになる。

 その間、あの館にて眠らされていたのだろうか。監視もなにもつけずに。

「おかげで城門は閉まっちまうし、客足はぱったり途絶えるし、店は閉めろって言われるし、商売上がったりよ。まったく……」

「あの、街から出る方法、ありませんか?」

「はぁ?」

 女性が不快そうに聞き返した。

「あんたねぇ、あたしの話、ちゃんと聞いてなかったろ。この町は落ちやしないよ。西の正規軍が押し寄せてでも来ない限りね。壁の内側にいりゃ安全なんだ。それにリムラーヤの兵が鎮圧に動いてるって話だ。どこに急いでるのか知らないけど、わざわざ危ないとこに行く必要ないだろう?」

「でも……僕、行かなくちゃ」

 ――きっと師匠たちは探してる。僕が誘拐されたと思って探してるに違いない。探しだしてくれるのを待っているのでは、今までと何も変わらない。今の僕は塔の魔術師だ。初歩魔法しか使えなくても、もう守られるだけの王子じゃない。

 ファローンは立ち上がると女性に頭を下げた。

「助けてくれてありがとうございます。それと、いろいろ教えてくれてありがとう。僕、行きます」

「……待ちな」

 踵を返すと、女性は声をかけてきた。ぽん、とキセルの灰を落とすと、彼女は近くのテーブルに盛られていた果物を一つ放ってきた。

 なんとか落とさずに受け取る。

「ありがとう」

「……死ぬんじゃないよ」

 ファローンはにっこり笑い、入ってきた扉から出て行った。

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