小さな魔術師
ようやくファローンでてきましたー。
――ここは、どこだろう。
目を開けたファローンは、見覚えのない赤い天井を見上げてまずそう思った。
少なくとも、見慣れた塔の自分の部屋や師匠の部屋の天井ではない。ましてや王の居城のものでもない。
どこかに拉致されたのだ、と即座に判断する。
――またか。
目を閉じ、ファローンはそっとため息を漏らした。
見覚えのない天井、嗅ぎなれない匂い。
物心ついてから何度もあった。
その大半が兄弟たちの悪戯であったり、側室や後見人の仕業であったりしたことを、今のファローンは知らない。命を狙う行為でなかったことと、血のつながる者達の仕業だからこそ――表沙汰にはされてこなかった。
――僕が城を出れば、もうこんなことはないと思っていたのに。またクロンカイト兄上に迷惑をかけてしまうかもしれない。
体を起こしてあたりを見回す。
先だって一泊したウェルノールの屋敷よりも豪華な調度品、ふかふかの絨毯、深い赤のカーテン。窓の外はまだ暗い。夜なのだろう。
覚えているのはモントレーの館に着いてから厨房に食事を取りに行ったところまでだ。
あの時見たサンドイッチを思い出して、ファローンは自分が空きっ腹であることに気がついた。
あれから、まだ一日は経っていないはずだ。
師匠たちやセインはどうしただろう。心配して探してくれているのだろうか。それとも――。
頭を振って、嫌な想像を振り払う。
金髪の師匠の笑顔、黒髪の師匠の穏やかな微笑み、そしてセインの親しみを込めた笑い顔。あの人達が僕を置いていくはずがない。
――なら。
ベッドを降り、カーテンに隠れるようにして窓に近寄る。どこの街なのかは分からないが、夜だというのに道の角々に篝火が焚かれている。見張りらしい武装した人間がうろついているのも見える。
何かがあったのだ。間違いなく。
それが自分の拉致に関係しているのかどうかはわからない。
でも、ここに居続けるのは、あの人達にとって良いことではない。そう、ファローンは判断した。
重厚な扉に歩み寄り、そっとノブに手をかける。ゆっくり回すとかすかに金属音がして、呆気無く扉は開いた。
小さな子供が命をかけてまで逃げるはずがない。そう思っているのだろうか。
だが。
自分は塔の魔術師だ。
大した魔法が使えるわけではないけれど、足手まといにだけはなりたくない。
薄く開けた扉の隙間からするりと抜け出ると、ファローンは出口を探して館の探検を始めた。
しばらくファローンのターンです(笑




