セイン、襲われる
セインは馬を急がせながら、後ろを何度も振り返った。
おそらくぎりぎりのタイミングだったろう。
モントレーの館を出るのもだいぶ渋られた。正当な理由がなければそのまま引き止められていただろう。おかげで時間をロスしてしまった。
おおっぴらに追いかけてくるものはいないが、用心するに越したことはない。
館から出て、馬を借りて市門から出る頃には街の雰囲気が変わっていた。
どこに隠れていたのか、鎧姿に武器を携えた兵士くずれがぞろりと姿を現し、商人や隊商の馬車が急ぐように大通りを飛ばしていく。行き交う人の顔に不安がはっきりと現れていた。
主街道を外れ、脇道に入った。木々の間から城壁が見え隠れする。あともう少し。
そう思った時だった。
不意に空気を切り裂く鋭い音がした。と同時に馬は後ろ足でいきり立ち、体を大きく震わせた。放り出されたセインの手から手綱が外れる。
「まずっ……」
こんな場所で待ち伏せされているとは。考えておくべきだった。街から逃れられたことで油断して気が付かなかったのが口惜しい。
風を呼ぼうとしたが間に合わず、セインの体は地面に叩きつけられた。
痛みを堪えて目を開ける。周辺に人の気配を感じる。近くに四つ。
馬は起き上がろうともがいていた。矢が足に刺さっている。
セインに焦点を合わせたまま茂みの中から姿を現したのは、皮鎧に金属兜の弓兵たちだ。
起き上がろうと立ち上がりかけたセインは後ろから羽交い締めにされた。
「こいつは……館の伝令じゃないな」
「確か塔の魔術師についていた小僧だ」
「魔術師の一行は殺すなとのことだ。縛ってそこらへんに転がしておけ」
セインを抑える腕が一瞬ゆるんだ隙に、短い呪を唱える。足元に旋風が起こり、土埃を巻き上げた。目潰しの効果を狙ったそれは成功し、セインは打った足を引きずりながらも館の方へと走った。
角の低木を回ったところで木陰に飛び込んだ。
視界を取り戻した弓兵たちが追ってこないかと足音を注意深く聞いているが、屋敷から見通せる直線道路のせいか、追いついては来ない。
目眩ましのつもりで土埃を巻き上げながら、痛む体を引きずってセインは館へ急いだ。
新連載開始しています。
彼らの五年前を描いた「翠の瞳」
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幼く初々しくお馬鹿な彼らもお楽しみくださいませ♪




