白氏、クレームに塔を訪れる
魔術師の塔に、珍しい客が訪れていた。
シュワラジーはその客の名前を聞いたとたん、いやーな予感がした。だが、会わないわけにも行かない。渋々ながら接待の間に通すよう命じて、重い腰を上げた。
彼が入って行くと、客はせっかく出された最高級のお茶にも手を出さず、じっと立ったままであった。
「お掛けくだされ。……わざわざ御自らがこの塔まで足をお運びになるということは、一体どのようなご用件でございましょう? イスファラ殿」
促されてようやく腰掛けた白氏一族の三男坊は、憮然として長を見つめた。
「あれは一体どういうおつもりですか?」
「は?」
「あなたに以前依頼しましたね、聖地アダの件で」
「ああ、伺っておりますよ」
しれっと答える塔長に、イスファラはどこか嫌な類似を思い出しつつ、口を開いた。
「実は先だって、わたしもアダに行ってきたのですよ。玉が奪われたとはいえ、結界を守らないことにはあの聖域の木々はすぐに枯れて、砂漠と化してしまいますから。それにあの封印の主がちょうど逗留なされておいででしたので、彼女ならあるいは、と思ってお連れしたのですよ。そこで、あなたが派遣なさったと思われる魔術師と出くわしたのですよ」
「ほう」
興味深げな風を装う。
「ところが、彼は一人で来ていました。わたしは二人、お願いしたはずです」
「ええ、わしも二人派遣しておりますが」
どこか落ち度があるか、と言わんばかりに応える。
「魔術師一人では、到底わたしの張った結界は破れますまい。それほど厳重でなければ、結界の役目は果たせません。私が偶然その日に訪れていたからよかったものの、でなければ何も目にすることなく終わったでしょう。それに……こともあろうかその魔術師は、祭壇のある場所を指して何もない、と申したのです!」
「そうですか」
イスファラの言わんとする事を理解しているはずだが、塔長はそんな彼の怒りをかわしてしまう。三男坊は、この長にしてあの弟子ありか、と思わずにはいられなかった。
「一体ここではどういう教育をなさっているのですか! あれがここの最高位の魔術師だというなら、魔術師の塔など要りますまい!」
きっぱりと塔長を刺激する一言を口にする。だが、長はやはり柔和に笑っていた。
「そうかも知れませんな。しかしイスファラ殿。わしも言わせていただきましょう。あれらの能力が見抜けないなら、白氏一族も要らぬ、ということになりませぬかな?」
それはイスファラにとっては痛烈な一撃だった。そう言い切れるほど、この長は彼らを信用しているのだ。
驚愕するイスファラを尻目に、長は笑いながら言った。
「ご安心召され、イスファラ殿。すでに百年を生きたあなた方にとってみれば、彼らは確かにまだまだ未熟者でございましょう。だが、それぞれに秘める力は相当なもの。でなければまぐれでもこの魔術師の塔の最高位になぞなれませぬゆえ」
両手を机の上で組み、微笑むその姿はどう見ても好々爺にしか見えない。ましてや数百人とも数千人とも言われる魔術師たちを一手にまとめ上げる長などには……。
「失礼した」
半ば憮然と席を蹴って立ち去るイスファラの背を、長はほくそ笑みながら見送った。
新連載開始しています。
彼らの五年前を描いた「翠の瞳」
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幼く初々しくお馬鹿な彼らもお楽しみくださいませ♪




