モントレーの夢
モントレーの描いた夢……北方五都市を統合し、宗主国リムラーヤから独立するという野望は、しょせん砂上の楼閣でしかありえなかった。
ギーランドという若く活力と野心にあふれた王が、そのような事実を許すはずもなかった。王の目が南を向いている時を狙い、軍の急襲によって王の代官共を追い払ったとしても、あの血気に燃えた若い王はその既成事実を決して認めまい。かりそめの独立の後、王に逆らった諸都市は豪華の中で崩れ落ち、その復旧には何十年という月日が費やされるのだ。
多額の上納金をむさぼるリムラーヤからの独立が街道沿いの商業都市の悲願だとしても、今はまだその機ではなかった。ましてや、その裏に妖しげな魔術師が絡んでいるとなれば……。
この危険すぎる野望をくじくために、実の面ではリムラーヤにこの動きを密告し、裏面ではシルミウムの魔術師の塔に連絡を取った。
リムラーヤ側の工作は見事に功を奏し、リムラーヤ王ギーランドは打てば響くような速攻で他の四都市を抑えたという。
あとは魔力の戦いだ。こちらの方面にはもう彼の打てる手はなかった。
この件に関わって弟が派遣されてくるというのは予想の範囲内だった。あれもシルミウムで相当の成績を修め、このまま行けば次期塔長の候補だという。モントレーに関わっている魔術師が危険なものであればあるほど、弟が派遣される可能性は大きいとウェルノールは踏んだ。
危険だと思ったからこそ、シルミウムと連絡を取ったのだ。
だが、その予想が当たれば弟を危険にさらすことになる。その比例関係に彼はあえて目をつぶった。
そして予測は当たり、弟とさらにもう一人、派遣されてきた……。
――さて、わたしは賭けに勝ったのか、それとも負けたのか……。
自分にすら皮肉な思いで彼は問いを投げかける。ふと控えている青年が目に入った。
「……エーリック」
何気なく尋ねる。
「おまえもわたしを悪党だと思うかい?」
「……それも一級品だと心得ております」
「おやおや……」
即答した近習にウェルノールは苦笑を浮かべた。
「おまえも主にきついことを言ってくれる」
「恐れ入ります」
一礼して、弟と同じ黒髪をした青年は答えた。
「ですが、お館様もその評価を悪評とは思っておられないと心得ておりましたが……?」
「……確かにね」
善良な無能であるより、有能な悪党のほうがはるかにいい。
だからこそ、彼はモントレーを憐れみはしても、嫌いではなかった。……彼を潰すことに胸が痛まないにしても、だ。
「エーリック、お前は有能だよ……」
ウェルノールは気に入りの近習に最高の褒め言葉で報いた。青年は静かに一礼する。
少年の頃拾った時にはこれほどに成長するとは思っていなかった。家を捨てるように出て行った弟と同じ色の髪と瞳の色が気に入っただけだった。つまらなくなったらラナリアにある別邸へでもやろうと思っていたが、負けん気の強い少年はウェルノールの要求に応え、辛辣で冷静で有能な部下に成長した。
何を命じてもたじろぐことのないこの側近との会話が最近のウェルノールの楽しみの一つになっている。
物静かで邪魔をせず、そのくせ心中を明らかにしない……いつか飼い主に牙を向くかもしれないその剣呑さが、彼は気に入っていたのである。




