セイン、慌てる
ようやくセインが師匠たちの注文の品を届けた時、室内は奇妙に緊張した不可解な雰囲気で満ちていた。
「おまたせしました。……何かあったんですか? 神妙な顔をして」
ソファにそれぞれ寝転がる二人を見ながら、セインが言う。
まだほのかに湯気の立つ食事を目の前にして、急に二人は空腹感を覚えた。卵の匂いが鼻をくすぐる。
セインがお茶を供するのも待てないのか、シャイレンドルはすばやく一切れかすめ取ると口に放り込んだ。
「うひょ~、こりゃうまい。ここの料理人、腕えーなぁ。おまえの兄さんとこと負けへんわ」
後半のセリフは律儀にお茶を待っているユレイオンに向けられたものらしい。お行儀の悪い、と言いたげに眉をひそめ、それを完璧に無視して、ふともう一人の弟子に思い当たる。
「セイン、ファローンはどうした?」
「もうすぐ来ると思いますよ。まだお盆を運ぶのに慣れてなくて、ゆっくり来てましたので。置いていくのも何かなとは思ったんですけど、お茶が冷めてしまいそうだったので……」
と、ちょっぴり弁解がましく言って、
「迎えに行ってきます」
と部屋を出て行く。その背を見て、あの小さかった子供がこれほどに育ったか、とユレイオンは感慨深げになる。
「おまえ、食わんのか? 全部食っちまうぞ?」
シャイレンドルが声をかける。ふと見れば、大皿に二皿、山盛りにあったはずのサンドイッチが残り一つになっている。
「おまえの底なしの食欲は異常だ!」
と嫌味を言い、最後の一つを口に運ぶ。と、バタンと荒い音を立ててセインが駆け込んできた。
「ファローンが!」
「何があった」
ファローンが持っていたはずのお盆を提げて、セインは青い顔をしていた。
「廊下の先まで行ったらこのお盆だけが置いてあって、ファローンの姿がどこにも見えないんです。もしかして、何かあったのでは……」
黒ずくめの魔術師は緊張した面持ちで相棒を振り返った。――が、その表情が怒りへと変わる。
シャイレンドルは、セインが持ってきた追加のサンドイッチをがつがつ頬張っていた。
「……おまえというやつはぁっ! 少しは気にかけたらどうなんだっ!」
「何をや。それより腹ごしらえしとかな戦えへんって。なんせ昨日の朝から何も食っとらんねやから」
後生やで、といわんばかりの表情のシャイレンドルに、ユレイオンは頭を抱えた。
「おまえ、今何が起こっているのか、分かっているんだろうな」
そろそろ堪忍袋の緒が切れたようで、黒ずくめの男は怒鳴った。だが、金の頭は動かない。
「シャイレンドル!」
「まあまあ、そう焦るなや。狙いはわいらなんやろ?」
手についた卵の黄身を舐めながらお茶を注ぐ。いきり立つユレイオンに吸われ、と手で合図する。
「だが、ファローンの護衛も俺達の仕事のうちだろう!」
「何や、おまえ。気ぃついとったんか」
「当たり前だ。塔長の考えそうなことぐらい、想像がつく」




