シャイレンドル、帰還
「……遅かったな」
帰ってきたシャイレンドルを待っていたのは、きわめて不機嫌な相棒の声であった。
一人でテラスの石段に座っていたところを見ると、シャイレンドルの帰りを待って一番最初に見えるところにいたものらしい。まさか夜更かしをしたのでもあるまいが、朝食を抜いたのは確かのようだ。
兄の用意したものなのだろう、珍しくゆるやかな白いシャツを着た相棒は、しかしその明るい色でも覆いきれないほど不機嫌オーラを振りまいていた。
「朝帰りとはいいご身分じゃないか。今まで何をしていたんだ」
知るもんか、とシャイレンドルは思う。
あのいけすかない白の一族と別れて森を出てみれば、すでに世の中は朝だった。聖域の周りに張られた結界は時間の流れまで狂わせるらしい。彼があの場の中にいたのはほんの半刻ほどで、朝帰りはいわば事故のようなもの。今回ばかりは彼に責任はないのだが、これまでの山のような前科から、信用してもらえないのは如何ともしがたい。
「わいのせいちゃう」
「なんだとぉ?」
幾分いじけたシャイレンドルのセリフに、ユレイオンの目が釣り上がる。
「貴様、俺がどれだけ苦労したと思ってるんだ! だいたい一人だけうまいこと逃げやがって……あのあとあの二人を相手に俺はさんざんな目にあったんだぞ!」
「へぇ、どんな?」
「どんなって……」
好奇心満々のシャイレンドルのツッコミに、ユレイオンはつられた。
「カード遊びに花当て遊び、散歩に遠乗り……お姫様は嬉しげに人の顔を覗きこむし、あの人と来た日には……!」
誘われるままに喋りかけて、はたと口をつぐむ。シャイレンドルは実に嬉しそうにこちらを注視している。何も好き好んで自分から弱みをさらすこともなかった。
慌てて体勢を立て直す。
「……まあ、そんなことはどうでもいい。それより、結果は?」
「何や、けち。喋ってくれたかてええのに」
「調査結果をさっさと述べんかっ!」
え~、と指をくわえた相手に幾分のめまいを覚えながら揺れイオンが怒鳴る。
――なんで俺はこんな奴と組んでいるんだろう。
「……ユレイオン、お前な」
めったになくまともに名を呼ばれ、ぎくりとする。
「な……なんだ」
こころなしか目が本気な気がする。おちゃらけてはいるが、本気になればこいつは相当な能力者だ。
思わず上体を反らした相手の両肩にぽんと手を置いて、シャイレンドルはしみじみと言った。
「そういうけちな根性やと、友人でけへんでぇ?」
「……貴様というやつはぁああああああ!」
身構えた分反動は大きく、ユレイオンはしばし真剣に相手を殴りつけたい衝動と戦った。
「あらぁ、ひょっとしてマジギレ?」
脳天気な反応の相手をぎろりとねめあげる。
つまらない会話はもうたくさんだ。はっきり言って忍耐力は切れかけている。だいたい、昨日一日兄にさんざん遊ばれたのだ。これ以上お遊びに付き合うのはもうたくさんだ。




