企み
「どういうことだ、塔の魔術師が来ているというではないか」
老魔術師を呼び出すと、モントレーは開口一番に言った。
「ああ、そのようでございますな。ですが、それは最初に申し上げたではありませんか」
モントレーの影から上半身だけ現れた老人の影は、こともなげに言う。
「アダの封印を解いた時から、いずれは塔の魔術師が来るだろうと」
「そうであったかも知れん。が、それがランスフォールの弟だというではないか。貴様、知っておったのか?」
苛々を隠さずにモントレーは問い詰める。
「それは存じませんでした。しかし、そうですか。なれば実に都合がよいではありませぬか」
「都合が良い?」
セゼルの影はすい、と全身を現した。
「ええ。塔の魔術師が来たのは存じておりました。ラナリアの街は我が監視下にございますゆえな。先日、高位魔術師が街に入ったので、その後追跡をさせておりました。郊外に潜伏しておるのは把握しておりまする。その滞在先がランスフォール家であれば、迎えをやればよいだけのこと」
「迎えだと? しかし、それでは……」
言いよどむモントレーに、セゼルは笑った。
「事を起こす前に塔の魔術師を捕らえてこの館に幽閉する予定でした。その手間がずいぶん省けまする」
確かに、モントレーが迎えをやれば、ランスフォール家としては招待に応じないわけにはいかない。家名の手前、大人しく連行されてくれるだろう。余計な消耗も避けられる。
「しかし、軟禁したところで破られればそれまでではないか。何か策があるのだろうな?」
モントレーの企てがランスフォールの若造の知るところになれば、事を起こす前に阻止されかねない。
セゼルは腰を折り、礼をしてみせた。
「お任せくだされ。我が掌中に落ちて罠を突破できた者は一人もおりませぬ。もし突破されたとしても、使い物にならぬほど消耗しておりましょう。事を成すのに十分な時間は稼げましょうぞ」
「では手配しよう。信用しておるぞ」
「御意に」
自分の影に消えていくセゼルを見送り、モントレーは一つため息をついた。




