同調
「何や、これ。……さっきも……」
「イスファラ」
それまで沈黙を守っていたもう一人の白衣の人物が、不意に錫を掲げた白氏の名を呼んだ。
「いかがなさいました?」
「その者、ただの人間ではないな。……自覚はしておらんようだが、先ほどからあれと同調している」
「同調ですと?」
フードに隠されたままの頭がうなずいた。
「結界が用を成さなかったのはそのせいだろう。これ以上その者がここに留まれば、引きずられてあれが起きる。早々に出てもらうがよかろう。そして、金輪際近寄らせぬことだ」
「いったい……なんの、ことや。勝手に話……進めんといてもらおか」
痛みをこらえながら、シャイレンドルは言い、フードの人物に視線を移した。が、イスファラと呼ばれたこの地の司が錫杖を突き出してそれを静止した。
「何にせよ、あなたにここにいてもらっては困る、ということですか……」
「……何や、わいとやろうっちゅーんか?」
むくむくと闘争心がわきあがる。そうでなくとも最初から気に入らなかったんや。
殺気立った彼の気に反応し、瞳が黄緑に変化する。風が渦巻き始めた。
「先ほども言ったはずです。ここは私の世界。ここで私に勝てるとでも? あなたの誓文書を持つ私を倒せるとでも? あなたの魔力を封じることなど、私にはたやすいことなのですよ?」
「やめろ! イスファラ! 挑発するな!」
フードの人物が叫んだと同時に、大地が鳴動を始めた。不気味な地鳴りが地の底から響いてくる。強い風が横殴りに吹いてくる。
「一体これは……」
とまどい錫杖を引いたイスファラにフードの人物は怒りを隠さず言った。
「言ったではないか! 彼があれと同調していると。これは彼の殺気に共鳴したあれが起こしているのだ。……彼を怒らせてしまった今となってはもう手がつけられぬかもしれん。彼が怒りを収めても、あれが再び眠りにつくとは限らんぞ」
「では、どうしたら」
「どしたんや、白氏一族の力っちゅーのはこの程度のもんかぁ?」
怒り心頭に達したシャイレンドルは普段めったに出さない本気を出している。慌ててイスファラは釈明した。
「これは私の力ではない! 地の聖獣の力です」
「地の聖獣の? まだ眠ってるんとちゃうんかいな」
「地の聖獣の封印がすべて外されているのです! おまけに封じの玉も持ち去られている。いつ起きても不思議ではない状態なのです! とにかくその闘気を収めてください! あなたのその気に同調して、聖獣が起きようとしているのです!」
断続的に揺れが続いている。足元から湧き出してくるような地鳴りと、木々の梢の鳴く音、木の倒れゆく悲鳴がシャイレンドルの耳にも届いた。
「わいのせいやと……?」
「気を静めてください! これでは本当に聖獣が起きてしまう!」
ドクン、ともう一度心臓が高鳴る。シャイレンドルの気が急速に収縮していく。それにあわせるように、地鳴りと揺れも次第に小さくなっていった。
 




