ユーフェミア、ランスフォール家を訪れる
娘はサロンでその婚約者を待っていた。
扉が開いて待ち人が入ってくると、さっと笑顔で立ち上がる。
「ウェルノール様!」
淡い薔薇色のドレスをまとった可憐な娘は、さらと裾をさばいて駆け寄ってきた。
「ああ、今日もきれいですね、ユーフェミア」
抱きとめた恋人と同じ銀の髪はわずかに色合いが違ったが、その違いはおのおのの美しさを引き立てるくらいのものだった。
「まあ、美しい方にそう褒めていただいても素直に喜べませんわ……あら」
後に続く面々に気づいて、ユーフェミアが慌てて身を離す。
「あの……こちらは?」
「こちらの方々ははるかシルミウムの魔術師の塔からおいでになった方々で……」
「まあ」
頬を染めた娘はドレスの裾をつまんで片足を引くきれいな礼をした。
「お客様とも知らず、失礼いたしました。わたくし、モントレー家のユーフェミアと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」
臆面もないラブシーンに当てられていた一行は慌てて礼を返した。
「加えて私の婚約者殿でね」
ウェルノールはゆったりと微笑んで弟のそばに立った。
「……姫、彼が先日お話しした弟ですよ」
唖然としていたユレイオンは、少女の輝く瞳を向けられてたじろいだ。
「……ユレイオンと申します。お初にお目にかかる」
かろうじて礼を失さない程度の礼をする。それは傍目にもかなりぎこちなかったが、未来の兄嫁たる少女は一行に気にかけなかった。
「お噂は伺っておりますわ。高名な魔術師でいらっしゃるとか。こちらにいらっしゃると伺って、ぜひ一度お会いしたいと思っておりましたの。お会いできて嬉しいわ。そちらの方々も」
如祭なく少女はシャイレンドルらにも無垢な笑みを振りまいた。
「でも、お客様でしたら、わたくしお邪魔でしたかしら」
「そんなことあれへん」
シャイレンドルがきっぱりと後を取った。彼も笑顔を返したが、彼のそれは少女のものとはもつ意味が違った。
「俺らはこれから仕事があるんで、ちょいと失礼させてもらいますわ。お邪魔はしませんよってに、ごゆっくり」
そういうと、止める間もあらばこそ消えてしまう。少年たちもこれ幸いとシャイレンドルについて扉から出て行った。
「ちょっ……」
ちょっと待て、俺も行く、と言いかけたユレイオンは、がっしりと兄に肩をつかまれた。向けられた笑顔が『もちろんお前は残ってくれるね?』と語っている。
ユーフェミアの気体に満ちた微笑み。
――ずっ……ずるいぞ、おまえら……!
拳を握りしめて内心叫んだユレイオンは、己の敗北を悟った。




