馬車は行く
「へぇ、ご兄弟ですかいな」
「ええ、五つ違いでね」
馬車の中では和やかな会話が展開されていた。……ただし二人で。
自他共に認める天下一のわがまま者シャイレンドルは、情報提供者であるこの貴族の青年と気が合ったようで、楽しそうに歓談している。意思表示する立場にない少年二人は、この先どうなることかと成り行きを心配しつつ楽しんでいる。残る一人は反論の余地すら許されず、不機嫌に車窓から過ぎる景色を眺めていた。
馬車は、郊外にあるウェルノールの館に向かっている。
「しかし、迎えは明日の朝やっちゅぅ話やったのに、ずいぶん早ぅ来はったなぁ」
シャイレンドルは沈黙するユレイオンのほうをちらりと見た。
「ああ、シルミウムの塔長が連絡を下さったのですよ。だいたいこの位に着くだろう、とね。だから昨日あたりから連絡が入るのを待っていたのですよ」
「でも、まだ僕たちが送った知らせは届いていなかったと思うんですけど……」
先刻から不思議に思っていたセインがおずおずと尋ねる。いくら用意して待っていたとはいえ、あのタイミングは早すぎる。あの時間では使者が館へ着くか着かないかだ。
「ああ、それはね」
ウェルノールは少年に笑いかけた。
「出来るだけ早く会いたかったから、市門の門番に連絡を頼んでおいたんですよ。シルミウムの長から皆さんの構成は伺っていましたからね」
そっぽを向いたままのユレイオンの口が、あのくそじじい、と動いた。
「……何も兄上がご自分で迎えにいらっしゃることはなかったでしょうに」
口に出してはユレイオンはこう言ったが、
「でも、私が来なかったら、お前は帰ってこなかっただろう?
と、兄の返答に図星を指されて絶句した。何がどうしても、この兄には勝てないらしい。
相棒の新たな弱点を発見して、シャイレンドルはほくほく喜んでいた。




