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アダの聖域 ~塔の魔術師シリーズ~  作者: と〜や
ユレイオン、ラナリアに到着する
22/101

情報提供者

「情報提供者……?」

「ええ、地震のことを塔に知らせてくださった方がいらっしゃって……あの、ユレイオン様、顔色がお悪いですけど……?」

「い、いや、何でもない」

 何でもないという割には真っ青な顔をしている。

「それで、その人の名は……?」

「ウェルノール・レ・ランスフォール様と伺っておりますが……」

 セインがその名を言い終わる前にユレイオンは絞め殺されそうな顔をした。一瞬、立ちくらみがしたように両目を押さえると、次の瞬間勢いよく立ち上がる。

「セイン、その方にはお前とシャイレンドルとでお会いしてくれ。俺は直接地震の起こったアダの聖域付近を調べに行く。では俺は急ぐのでな」

「まぁ、ちょいと待ちぃな」

 そのまま出て行こうとするユレイオンの服の裾を、シャイレンドルがしっかりとつかんでいた。

「何や、えらい慌てようやなぁ。なんぞその人に会うたらまずいことでもあるんかぁ?」

「……いや、別に」

 答える声に、すでに余裕がない。

「ならゆっくりすりゃぁええやろ。せぇっかく今夜はあったかい布団に寝られるんやし。だいたいがその情報提供者、名前からしてお貴族様やろ? なら、一番偉いお前が会うんが筋っちゅーもんやろが。地震の現地調査ならわいが行ったるで」

 確かに塔の席次はユレイオンが上だが、普段ならそんなことを気にかけるシャイレンドルではない。ましてや自分から仕事に名乗り出るなど、驚天動地である。間違いなく、彼は相棒の反応を面白がっているのだ。

 ユレイオンは助けを求めるようにあちこちへと目を動かしたが、彼を助けてくれそうなものは何一つ見当たらなかった。シャイレンドルの饒舌にこそ叶わないものの、本来彼も屁理屈を操って他人を丸め込むことは得意だった。が、今このときに限ってはその能力も彼を裏切ったようで、言い訳の一つも出てこない。水源の枯れた喉から漏れたのは、半ばうめき声のような一言だった。

「いつ、迎えが来るって……?」

「さっき到着の知らせを送ったので、たぶん明日の朝になると思いますが……」

 このとき、彼の脳裏には夜逃げの計画が立っていたに違いない。しかしその希望を店主の声が打ち砕いた。

「ユレイオン様というのはそちら様で……?」

「そうや」

 本人が答えるより早くシャイレンドルがうなずいた。変わった取り合わせの一行を胡散臭げに見やった店主は、前掛けで手を拭きながら言った。

「外にお迎えの人が来てますんで」

「……俺は留守だ! 後は頼んだ!」

 ユレイオンはシャイレンドルの手から服の裾を強引にさらうと、混乱した言葉を残して逃亡しようとした。慌てて追いかけたシャイレンドルらは、戸口を出ようとして、そのすぐ外で棒立ちになったユレイオンに危うくぶつかりそうになった。

 目の前の通りに白い馬につながれた白い馬車が止まっている。そのタラップに、やはり白い服に銀の髪の青年が立っていた。

「ユレイオン!」

 ユレイオンよりいくつか年長であろう青年がその顔を見て呼びかける。輝くばかりの微笑をたたえたその面差しは、色を除けばユレイオンによく似ていた。

「あ……兄上……」

 常々冷然たる威厳を漂わせていた黒ずくめの魔術師は、思わず呆然として言葉がこぼれるに任せ、魔術が何の力も持たないときがあるのだということを露呈した……。


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