ユレイオン、ラナリアに到着する
「へぇ、結構でかい町やな」
市門をくぐりながらシャイレンドルは素っ頓狂な声を上げた。
ジェルナーラ地方最大の都市ラナリア。堅固な城壁に囲まれ、繁栄を誇る北の華。十数年前発見された、アダの聖地に近い金鉱から流れ込む富によって人々は豊かになり、ここ数年で各国の商人たちも行き来する交易都市へと成長した都市国家である。
街路にあふれる物売りの声、馬車の音。ここにつくまでに通り過ぎた町に比べると、かなり規模が大きい。
「馬鹿でかい声を出すな、恥ずかしい」
「ええやないか、褒めとんやで」
黙って立っていれば美形に見える師匠たちの低レベルな争いに、半歩下がって従うセインはこめかみを押さえていた。五年も付き合ってたいがいのことには慣れているのだが、こうして一日中二人が顔を合わせて角突きあわせている状態が七日も続けば、話も違うというものだ。
そう、七日。本来五日の旅程はやはり延びてしまった。その伸びが二日で済んでいるのはひとえにセインの功績である。シャイレンドルの遊びたがりの虫がここぞとばかりに騒ぐのを押さえつけてここまで引っ張ってくるのは大変だった。その上、いつもならセインと一緒にシャイレンドルを止める側に回るはずのユレイオンが、今回はシャイレンドルの誘いに乗る傾向がある。かといって楽しそうに遊んでいるわけでもなく、相棒が騒ぐのに渋々付き合っているように見えるあたり、ユレイオンの行動はきわめて不可解であったが、とりあえず、いかにシャイレンドルに旅費を使い込ませずに旅程をこなすかということに心を砕いていたセインは、そこまで配慮する余裕もなかった。
「あの……じゃあ、今日はここに泊まるんですか?」
傾いた太陽を眺めながらファローンが言った。彼もこの七日間ですっかり日に焼けて普通の少年らしくなっていた。まだ遠慮がちな物言いが抜けないが、この二人に付き合う以上、やがて強靭な精神を身につけるであろう。
「そうだね、今日はこの中で宿を探そうか」
セインの言葉を聞いたユレイオンの顔が目に見えて曇った。
「……もう少し先に進んだほうがよくはないか? まだ陽もあることだし……」
「いえ、この先には……」
言いかけて、セインはあわてて口をつぐんだ。塔長から受けた命令を思い出したせいである。
「セイン、あれ……」
ファローンの声に振り返ると、シャイレンドルがとある旅籠に入るところだった。
「シャイレンドル様!」
「おう、早ぅ来いや。ちょうど四人分、部屋空いとるって」
白い袖をひらひらさせて自分たちを呼ぶ能天気な相棒の声に、ユレイオンは深くため息をついた。
「……探すまでもなく、決まったみたいですね、宿……」
あきらめたように言うセインに、ユレイオンも開きかけた口を閉じるしかなかった。




