プロローグ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カツン…カツン…カツン…
幅の広い螺旋階段。そこを、一人の青年が上っていく。少しくすんだ赤色の髪に、深い茶色の眼。笑えばやんちゃに見えるだろう整った顔は、今は触れれば切れそうな鋭さを宿している。
思い出す。奴の今までの所業を。
自分にとって大事な人達の傷ついた姿を。
(ふざけるな!アイツのせいで、あたしの家は…あたしの、家族は!!!)
――――烈火の如き怒りを、恨みを持った少女がいた
(大丈夫ですよ…どの様な事があろうとも、わたくしは神に祈りを捧げるだけですから)
――――今にも消えそうに、儚く微笑んだ少女がいた
(卑怯な!正々堂々と勝負しろ!私と………闘えぇ!!!)
――――正義を果たせず、吼えた少女がいた
(ははっ…悔しくなんてないさ。所詮僕ら冒険者が貴族に逆らっても、どうにもならない…ならないんだ…ぅっ…ひぐっ…)
――――誇りを、矜持を、砕かれた少女がいた
(彼奴を倒そうと思わんのか、じゃと?……それは、死ぬのが早まるだけじゃ。民も、こなたも……お主も、の)
――――守りたいものを、諦めた少女がいた
(私にはあなたに好かれる資格がありません。…こんな、穢れた私には…)
――――そう、想い人に、告げる少女がいた
カツン…カツン…カツン…カツ。
螺旋階段を上りきり、足を止める。石柱が並び、鎧や絵画が飾られる、どこからどう見ても立派で荘厳な廊下。しかしどこか暗い雰囲気を持つそこを、静かに歩いていく。やがて、目の前に金銀をあしらった重厚な扉が現れる。
ギィイ………
青年はそこに手をかざし、力を込め、開けていく。
「よくここまで来れたね、エドワード君?」
鈍く輝く銀髪、透き通るようなアッシュの瞳に、人類という枠にいるのが不思議に思えるほど端正な顔立ち。どこか隔絶した雰囲気を持つ男は、嘲る様に言う。
「俺には過ぎた仲間がいるからな。お前には…どうやらいないようだが」
青年……エドワードは、淡々と、顔色を全く変えずに返答する。
「仲間ねぇ…確かに君の仲間は優秀だね。僕の配下を足止め出来るんだから、相当だよ」
「まぁ、今はそんなこたぁどうでもいい。今から、オメーを殺すんだ」
「ふっふふ、君の仲間たちが殺されるまで、時間を稼いでもいいんだけどね。…まぁ、そんなことしなくても思い上がった平民一人を殺すくらい、訳のない事だ」
「…」
ガチャリ
エドワードは無言で剣を構える。相手の青年も腰の剣を抜き、構える。ビリビリとした緊張感が走り、次第に高まっていく。
「光栄に思うことだね。僕に直接手を下されて負けるなんて。あの世で自慢してくるといいよ!」
「ッ!」
戦いの火蓋が、切って落とされた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「俺の…勝ちだ」
辺り一面、華美で絢爛、重厚で剛健だった部屋の面影はない。所々にひびが入り、無数に切り傷、焦げたような跡に、大きな穴も空いている。そこに、ボロボロになりながらもしっかりと立っている、くすんだ赤い髪の青年。
「ふざ…けるな…僕が、負ける…?そんな、そんな、事が…」
そして、床に倒れている、鈍く輝く銀色の髪の青年。
「フィルド…オメーは、これで終わりだよ」
エドワードは剣を振り上げ、
「お待ちなさい」
暗い影の中から、声が掛かる…………
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「っだあああああ!ここで終わりかよ!気になりすぎる!!来月までどうして過ごせってんだチクショウ!」