嵐の日
ある日、嵐がやってきた。
朝から風が木々を揺すり、昼になると雨を降らせて窓や戸をきしませるような強風となった。
時折枝が折れ吹き飛ばされていく音を聞きながら、おじいさんは窓から外を見ていた。
窓を流れる雨のようだった。どうしてももやもやと、おじいさんの心は落ち着かない。
椅子から立ち上がり、部屋の中をうろうろすると、もういてもたってもいられなくなり、レインコートを着ると外へ出ていった。
突風に足を踏ん張りながら森へと入っていく。木々は大きく揺れて枝や葉を振り乱して、恐ろしげなうなり声が轟いていた。
小屋はすぐ見える。
おじいさんは急いで小屋の前に近寄って、中を確認すると大きく息を吐いた。
小屋の中は折れた枝などが散乱しているが、うさぎの姿はどこにもない。
「やっぱりいなかったか。…わかってたんじゃがなぁ」
こんな森の騒がしい日に、遊びにきているわけがない。
わかってはいたのだが、見て安心せずにはいられなかったのだ。
ようやく胸を落ち着かせたおじいさんは、フードを深く被りなおして家へ戻った。
ドアの音を聞いたおばあさんが、不思議に思ってキッチンから出てくると、
「まあ、おじいさん。まさかどこかへ出かけていたの?」
と大仰に驚いて、顔も足もびしょびしょになっているおじいさんのためにタオルを取ってきた。
「仕事小屋に行ってきたんじゃ」
レインコートを脱ぎ、顔を拭きながらおじいさんは言った。
「忘れ物でもあったの?」
「いや、毎日来るうさぎがな、気がかりでの。…もちろんおらんかったわい」
笑うおじいさんに、おばあさんもつられるように笑った。
「おじいさんは、そのうさぎが大好きなのね」
おばあさんのその一言に、おじいさんはそうかと思った。
「まるで森にお友達ができたみたい」
なぜだかやってくるうさぎ。
ただただそれを不思議に思っていたのだが。毎日一緒にいるうちに、あのうさぎのことが、こんなに気がかりになっていたらしい。
「でもおじいさん。うさぎはとても臆病な動物だし、体が濡れるのをとても嫌がるんだそうよ。雨の日は、巣穴から一歩も出ないんじゃないかしら」
おばあさんの言葉は、またおじいさんに新しいことを気付かせた。
そういえば、おじいさんの休日は雨の日だと決めている。雨の日は小屋に行くこともなかった。
きっとうさぎもそうなのだろう。
あのうさぎも仕事のつもりだろうか。
1人と1羽が同じ日に休んで、そして決まり合わせたように仕事小屋で顔を合わせているのだと思うと、なんだかおじいさんは可笑しくなった。