不思議なうさぎ
今日もおじいさんは木を削ったり磨いたりと、森の仕事小屋で働いている。
不思議なことに、あの日以来うさぎは毎日この小屋にやってくるようになった。
おじいさんが仕事をしていると、いつの間にか小屋の中に入ってきて、床に落ちた木の切りくずをくわえて転がしたりかじったりして遊んでいる。
エサを与えたことは一度もないし、特別に可愛がっているわけでもない。それなのにうさぎは毎日毎日やってきた。
「おまえは何でここに来るんじゃろうか」
最近では、この不思議なうさぎのことを、おばあさんに「今日も来たよ」と報告するのが、帰宅のあいさつになっていた。でもおばあさんは、おじいさんが近くで餌を探しているうさぎのことを大げさに言っているのだと思っているようだ。
おじいさんも、それは尤もだとわかっているので、こうして小屋で「不思議だ」と呟くのである。
うさぎが来てから、おじいさんは仕事が楽しくなっていた。うさぎを見ていると、新しい木工細工のアイデアがどんどん湧いてくるからだ。丸いうさぎの姿はおもちゃにするのにとても都合がよかったのだ。
「おや、もうこんな時間か」
手元を照らす光がオレンジ色になっていることに気付いて、おじいさんは小屋を見渡した。いつもいつの間にか現れていつの間にか姿を消しているうさぎだったが、まだ小屋の端っこで長い後ろ脚を伸ばして眠っていた。
こんな時間までいたことはなかったので、おじいさんは「そろそろ起きんかの」と声をかけた。
ずいぶんと眠っていたようで、うさぎは寝ぼけた表情で顔を上げて、おじいさんを見つめた。
「寝坊すけさんよ、もうとっくに巣穴に戻る時間が過ぎてるようじゃよ」
うさぎは寝ぼけたままおじいさんの声を聞いていたが、外の斜めに傾いた日差しを知ると、飛び上るように起きて外へ出た。
「のんきなうさぎじゃ。無事に巣穴に帰るんじゃよ」
飛ぶように森を走っていく後ろ姿を、おじいさんは優しく見送った。
「あいつは一体どこから来ておるんじゃろうなぁ」
小屋の奥に吊り下げてあるランプを机の上に掛け直し、
「さて、わしはもうしばらく頑張るか」
と、いつでもランプを灯せるように準備した。