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学びの時

う~む。

思ったより、書けなかった。

若者は仲間の剣士に刀の使い方について手ほどきを受けている。


実際のところ、仲間の剣士に比べれば私を使う技量としてはかなり劣るだろう。

その事を受け入れたうえで、受け入れるのは中々難しいことなのだが、若者は諫言を聞くだけの耳をもつようで、仲間からの意見に関してさして反発することは少ない。


そういえば、私も学んでいる時期があった。

剣豪に使ってもらっているときに、剣術、刀術を覚えることが出来たのだ。


---

意識がもどってきたときには、既に何かを斬っていた。

余りにも長い間、暇になっていたので意識を切っていたのだ。

久々の、肉を斬る感触に、身を震わせる。


「感じが変わったな。

 理屈はわからないが、強くなった感じだが、少しおとなしくそのまま使われていてくれ。」

周囲に意識を向けると、5人程の相手と相対しているのが分かる。


そして、戦いがはじまった。

相手は野盗の類だろうか?

身なりがよろしくないうえに、目には欲望がギラついている。


それに対して私の持ち主は、着流しのようなものを着て、相手を面白そうにみている。


一人目が大きく振りかぶって曲刀を力任せに振り下ろす。

持ち主は少しだけ動き、ゆっくり私を振り下ろす。

「おせぇ!」

叫びながら、一人目の男は倒されていく。

確かに遅い剣速であったが、怖ろしいほどに力が込められていた。

そうと見えないが、相当な腕力があるようだ。


しかし、それだけでは、何故()()()()()()()()()()

そういった謎が残る。


「よくも兄貴を!」

逆上しながら二人目が薙ぐように槍をふりまわす。

またもや、少し動き今度は剣を槍に当てる。

ゆっくりでありながら、確実なタイミングで槍の穂先の根元を切断する。

普通ならどのような剛剣であろうとも、木製の部分とはいえ動いている槍を斬るというのは余程の偶然が重ならないかぎり出来ることではない。

そして、二人めも同じく倒される。


「いっきにかかれぇ!」

3人になり、ある種連携のしやすい人数で、それなりにキッチリ連携を取って襲い掛かってくる。

再度、少し動き、一人に向かってのみ剣を刺突するようにゆっくりとしたモーションで迫る。


「「あいた!」」

何故か、他の二人がぶつかり転び、そちらに気を取られているうちに三人目も倒される。

残り二人も半分以上減った上に、転んでしまえばどうしようもない。


あわてて逃げる算段をするかのように、一人だけ背を向けて走り出す。

もう一人は逃げる前に、踏みつけられて動けないでいた。


「かはっ!」

踏まれていた男は一声呻くと動かなくなる。

そして、最後の一人だが懐から何か棒状のものを出して投げつけると、バタリと倒れる。


圧勝であった。


---

私の新たな持ち主は剣豪であった。

敢えていうなら、女剣豪であろうか、女性の身でありながら剣豪であったのだ。

性差別はあるにはあるが、職業の振り分け程度のものだ。

ある時代では、まるで財産かおもちゃのように扱う事もあったことを考えれば、進歩したものだと感慨深いものがある。


戦いが終わり血糊を綺麗にぬぐってから、私を朱鞘に収めると何事もなかったかのように普通にあるきだした。

倒した野盗にはキッチリ止めをさしており、首でももっていけばそれなりの報酬がもらえても不思議ではないのだが、長期間寝ていた私には現在の情勢というのが分からない。


「いい剣だが、すこし癖があるな。

 以前の持ち主は速度に特化していたのだろうか?」

確かに、シノは速度に特化していたし、ウォーデン家の流派は速度に重きを置いた剣術を教えていた。

シノ自身は、下手な男に負けない膂力をもっていたが、あれは規格外だから除外していいだろう。


ウォーデン家末代は、確かに速度にのみ特化していたといってもいい。

余程重量級の魔物、魔獣等が出てこなければさほど問題なかったのだ。


しかし、そんな事私を使ってみただけで分かるものなのだろうか?

少なくとも、この女剣豪、先程の戦闘を見るに只者ではないことは確かだ。


「まあいい、オマエなら早々折れる事はなさそうだ。

 あたしにあった剛剣が見つかるまで、よろしくな。

 あたしはクレナイだ。」

クレナイと名乗った女剣豪と長いときを共有することとなる。


---

「だから、変に速度を上げようと力を入れるな!」

クレナイが私に向かって怒鳴りつける。

ちょっと力を注ごうとしただけで、怒られてしまうのは理不尽だ。

第一、力を分ける特性を使いこなせないで、持ち主たる器量かと問いたい。

・・・・・・問えないのだが。

ゆえに、力をひっこめて使うに任せる。


まあ、こうやってギャンギャンいいながら私を振り回しているのは、なかなかシュールな光景だろう。

剣豪の相手は、魔獣だった。


最近は討伐依頼等は少ないらしい。

何故かというと、このクレナイのように腕試しと言って勝手に魔物、魔獣を駆逐する輩が出てきたのが原因だ。

力を持つ者はいいのだが、力を持たないものや、迂闊なもの、また時として恨みを買っているもの等はたいして時をおかずに消えていく。

なのに腕試しが()()()()()()のだ。


御他聞に漏れず、クレナイも腕試しの一環である。

ただ、相手がおかしい。

知恵のある蛇ではないにしろ、規格外にデカイトカゲだ。

恐竜と竜の間くらいのような相手だ。


そいつの鉤爪や牙をいなしていく。

一撃目が来る前に少し動いて、受けると二撃目は一切当たらない。


大分一緒に居て分かった事だが、クレナイは間合いを操ることを得意とする。

最初の一撃目を誘導し、正確な場所を自らのイメージどおりに剣を走らせ、結果を操る。

速度と力と正確さが全てだと思っていた私には、かなり受け入れられない事であった。


故に当時は、相当反発して、このような強力な相手であっても意固地に隙あらば力を流し込もうとしていた。


---

大竜(と呼ばれているらしい)を倒して、街の入り口で素材を売り、街に入ると宿屋にもどる。

「おかえり、今日はどうだった?」

「ああ、楽勝だった。

 しかし、この剣のおかげでちょっと焦ったがな。

 まったく、もっと丈夫な剣があればとっとと入れ替えるんだがなぁ。」

クレナイは失礼な事を口走る。


「あいかわらず贅沢だねぇ。

 剣の事はわからないけど、長い間一緒にいる相棒なんだから無碍にしてはいけないよ。」

宿屋のおばちゃんは良い事を言う。


「わかってんだけどねぇ。」


「そ、それは!」

頭をぼりぼり掻いているクレナイを見て、食堂で早めの夕飯を食べていた男が立ち上がる。


「ん? これかい?

 5年前くらいにボディーガードした奴からもらった報酬だ。

 何でも『朱鴉アケガラス』って名前らしいよ。」

「間違いない!

 我が始祖が使っていたという伝説の剣!」

男がワナワナといった感じで私を手に取ろうとクレナイに近づく。


「それで、何が言たいんだい?」

「それは本来、我がウォーデン流が所持するべき剣!

 十分な謝礼なら払おう、いきなりこんなところですまないが、譲ってはくれないだろうか?

 もちろん、代わりに御主が望む剛剣を見繕う事もできる。」

おもったより下手に出てクレナイに交渉を申し込む。

良くあるパターンだと、本来の持ち主は自分だからと悪びれもせずに盗もうとしたり、女と侮って取り上げようとしたりする事があるのに、ウォーデン家の教育は世紀を越えても浸透しているようだ。

・・・・・・初代が教育をしていたかどうかは置いておく。


「ええと、あたしも悪くない剣だとは思ってるからね。

 けど、この剣の剛性に敵う剣っていったら、かなり限られると思うよ。」

それはそうだろう、私を越える剣というものは早々ないからな。


「では、では!」

男は焦りすぎたのか、何をどうすればいいのか分からなくなったのか、混乱の極みにあって一言。


「では、付き合って下さい!」

「ああ、いいよ。

 それなら、この剣は二人の共有財産ってことでいいかい?」

クレナイもあっさり承諾して、二人でウォーデン流から、ウォーデン流派『紅』と『藍』というものが発生した。


『紅』はクレナイから発生した間合いが全ての剣術

『藍』は速度を重視した剣術


二人は互いに剣術を磨きあい、高めあい、それらを私で試し、私はそのすべを身に浸透させていくことにした。

そうして、剣と己を使いこなす事を長きに渡って学ぶ事ができたのだ。


---

若者は私を振るい、刀術の一つである斬撃を飛ばす技を放ち、緑小鬼ゴブリンの首を刎ねる。

刀術としては中級の部類に入る技だ。


上級になると、無数の斬撃を絶え間なく放ったり、複数ランダムな軌道を描きつつもターゲットに集中したりと様々な事が出来るようになるが、若者が出来るようになるには、まだまだ歳月がかかりそうだ。


若者は要領を掴むのは早いのだが、発展させる事が少々苦手なようだ。

それでも、仲間と研鑽を重ねれば、クレナイのように伝説に残る剣豪になれるかもしれない。


後3話かぁ。

終わるかなぁ。

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