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飾られた時

折り返し、折り返し。

今は若者の実家に帰ってゆっくりとしている。

今迄は宿屋や野営ばかりだったので、実家でゆっくりというのは久々だ。


語らう大騎士と若者、私は差し向かいあったとなりにある場所で二人の話にゆっくりと耳を傾ける。

私は刀の台に置かれている。

この家で使われないときには常にここだ。


話を聞きながら、私はあの名家で道場に飾られることになった永い時代を思い出す。


---

シノ・ウォーデン

後に数百年続く、ウォーデン家初代が私を購入した。


そして、あの商人はそっと店を綴じたらしい。

私が売れたことで気が抜けたのだろう。

それにもう歳だし、私を買ったお金で老後をゆっくり過ごしてくれればいいとおもう。


「うん、おまえは私が最初に見初めた通りの剣。

 相応しい人間になるため、頑張った」

物言わぬ私に話しかけてくれる朱の鎧を着た新しい主人。

商人ほどではないが、丁寧に手入もしてくれるし、敵とみると手加減なく私を振るってくれる。

英雄カイン程の使い手ではないが、長い生涯で上から十指に入る良い主人だ。


そして今日は、領民を守る為に奮戦している。

新しく土地をもらったはいいが、やはり問題のある土地で魔獣、魔物が多く周囲に生息し、ここに住む者も罪人となった者の家族など、他に行くところがなくなった訳ありの人たちが大半だ。


「私の領民に、何する!」

それでも、自らが庇護することになった彼等のために働く。

期待されてるのかどうかも分からない、いや、女性ということもあり、多少軽く見られていることも否めないだろう。

もう少し、効率を考えればもう少し村に近づいてから倒せば尊敬と畏怖を勝ち取れるというのに、人里近くに来た時点で退治するようにしている彼女は健気だった。


「ふう、今日は肉料理。」

「お嬢様、もう少し我々にお任せいただければ・・・・・・。」

当然ながら、シノは一人ではきていないし、来れない。

立場ある人間でもある彼女は、幾人かの護衛を連れてきている。

しかし、今回の魔獣退治でついてこれたのは一人だけだ。


「うん、それじゃ料理任せる。

 魔獣とはいえ、牛みたいだから、おいしいよ?」

何故か疑問系だ。


「はっ、後から来る者にもっていかせます。

 ところで、領民には振舞われないので?

 退治した獲物をみせれば、多少は評価が上がると思いますが?」

「別に、どうでもいい。

 食料足りてないなら、そうして。」

「はっ、よしなに!」


男は一礼すると、何かで連絡を取りそのままシノの護衛を続ける。


「・・・・・・ついてくる?」

「護衛の仕事を遂行するまで。

 プロですので。」


そして、何ども何ども撃退を繰り返しこの男の機転で肉を振舞う等のパフォーマンスをする事で、領民は領主としてシノを慕うようになっていった。


---

旗印がいれば、比較的人はやる気を出したりする事がある。

彼等には、希望は無く、ここで朽ちていくだけだとあきらめていた。

運がよければそれなりに食えるけど、運がわるければ魔物、魔獣の餌、もしくは人の悪意によってより酷い目にあっていたかもしれない。


シノが来て、撃退を繰り返す事で領民として動く事に使命を見出していた。

まずは簡単なところで、危険を減らす為にバリケードや罠、鳴子などの警報トラップをつくるようになっていった。


次に、食糧事情を改善する為に、田畑を作り魚や獣をとり、魔獣等は流石にシノが出張って退治していたが、皆に食料がいきわたるようになっていった。


この地方でしか取れない魚や植物等で商売を始め、商人が来るようになり交易も始まった。


村が大きな村程度に膨れ上がったときには、シノは名実共にこの地の領主となっていた。


そして、冒険者ギルドも来て、冒険者によって魔物や魔獣が狩られるようになっていったのだが、それでもシノ程の強さを見せるものは現れなかった。


かつて冒険者だったシノの戦う様に、多くの冒険者は魅かれていき彼等は信望者となり、シノの剣術を教えてもらうべく、領主館の近くに道場が建てられた。


---

「なんもしてないけど、道場主?」

「ご謙遜を、私は領主としての戦いを常に傍でみておりました。

 あなたには、かの英雄ですら敵わないでしょう。」

流石にそれは反論したかったが、振動しにくい剣の身では何も言えない。


「うん、がんばった。

 けどそれは、私のため。

 別に人になにしてもらうでもない。」

「しかし、結果多くの人に幸せをもたらしております。

 そして、剣を教えればもっと幸せな人が増えるのです!」

一見クールな元護衛のプロの男は、執事服に身を固めシノに仕えている。


「ん、わかった。

 それじゃ、教える。」


そして私は、この道場の象徴として飾られることとなった。

そして、朱の鎧を常につけていた主人にちなんで『朱鴉あけがらす』と名を改めてつけられた。


---

門下生は100名程度になっていた。

実は昔はもっといたのだが、厳しい修行に耐えられる者が少なく現在の人数におちついている。


「先生、一本よろしくお願いします!」

「ん、わかった」

主人と若い男が木剣をもって向かい合う。

主人は木剣を軽々とふるい、若者を追い詰める。


若者は何とかシノの剣が見えているのか、受けにまわっているものの決定打はもらっていない。


「強くなった、ギア上げる。」

「わかりました、お願いします!」

今までも同じような事があり、若者は防御しきれずに後ずさる。

そこにシノは追撃をかける。


滑るような足取りで追いすがり、間合いを離さず木剣を絡めとり跳ね上げる。

「一本、それまで」

執事服の男が一本を宣言する。


「いや、流石です。

 シノ先生に敵う人なんて居るんですか?」

「いる、いっぱい。」

「はぁ、世界は広いなぁ~。」


若者はがっくり項垂れる。

それを聞いたシノは思わず首を傾げる。


「そういえば、私以外とまともに勝負してない。

 ・・・・・・そうだ、ちょっと待て。」

シノは執事に耳打ちをして、相談をはじめる。

最初は難しい顔をしていたが、何かしら思いついたのか、私を手に取ると何らかの魔力が浸透するのを感じる。

魔力は刀身ではなく柄の部分に注ぎ込まれたようだ。


「これで、どこにあっても居場所は分かります。

 そして、帰ってこなければ、私めが必ず取り返しにいきましょう。」

「うん、ありがと。

 それじゃ、みんなあつまって。」

どうやら位置感知の付与がかけられたようだ。

シノが門下生を全員集める。


「よく聞いて。

 これから、私から皆伝を受け取った弟子には、一年間『朱鴉あけがらす』を預ける。

 世を見て強くなって、私の流派広めてほしい。」

「補足しますと、一年間の間に皆伝の者が現れたら戻ってきたときに渡す形になります。

 強さを求め、流派を広げ、我が領地の名声を広げるのです。

 シノ様はこの地の守護として離れるわけにはいきません。

 それゆえ、相応しい人間に広めてもらおうという事です。」


二人の台詞を聞いた門下生の反応はさまざまだった。

ガッツポーズをとる者、理解しきれずに情報を整理中の者、門下生だけどこの地の生まれなので離れる気はないなと他人事に考えている者。

しかし、領主に認められ、故郷を有名にするという役目が与えられるのは、相当に名誉だ。


これで、罪人の残り物などとさけずまれるようなことはなくなる。


そして、更に一年後、皆伝の者が現れて、私は色々なものを見ることとなった。

皆伝が居ないと私は道場に飾られ門下生の行く末を見守るようになった。


この道場がなくなるまで私はこの道場を見守り続けた。


---

私は再び若者の腰を飾る。

この家は、ウォーデン家のように途中で途絶えるかもしれない。

それとも、私より永く続くかもしれない。


しかし、はやり永く続いて欲しいものだ。

子々孫々を見守り続ける、本来の守り刀としての役割をようやく見出したのがこの時代だったのかもしれない。


次の話、大分書いたけどボツ。

ちょっと突飛なので、閑話にでもします。

なので、一週間は空くかもしれんです。


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