販売時
3話程先で詰まっているけど、きっと明日にはなんとかなる!
冒険者の店で若者は、買取カウンターにロックゴーレムの核や、悪い魔術師の装備品を置いていく。
ここ最近活発化してきた魔術師で、目に見えた被害が見えてきた為討伐された。
昔は、良き魔女として薬師として生業をしていたそうだが、何らかの魔が差したのか、耐え難いことでもあったのか、魔術に没頭して今に至る。
同情的だった街の人間も、被害が出ればこうせざるえない。
若者は幾許かの金品を報酬としてもらい、仲間と一時的に離れて買物にいく。
そういえば、私も昔は、武器屋に並べられた事があったな。
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あれから、私は国に暫く保管されていたのだが、たいして年月を経過しないうちに戦争が始まりどさくさにまぎれて盗まれ、売り飛ばされてしまった。
剣身にも慣れて、やろうとおもえば盗賊一人程度操るのは訳がなかったのだが、そうする事が悪だと私はその時信じていた。
カインの影響であったのだが、私はカインではなかった。
カインのように、善意が善意で返るようなことはなく、なにより私は物言わぬ剣でしかなかったのだ。
私を国から盗んだ盗賊がどういう末路をたどったか、知らないし知りたくもないが、大した人生を送る事はできなかっただろうことは確信している。
それからも私は転々と、あちこちに最初は闇から闇に、やがて普通にそこらの露天でも並べられるようになってしまった。
私の姿は有名すぎたらしい。
カインにあやかってレプリカが沢山作られ、当然詐欺目的の紛い物も作られ、私はそんな中の一振りとみられ、この日も露天で並べられていた。
「おや、ほうほう、これはこれは。」
「いらっしゃい、様々な雑貨を扱っているよ。
包丁、ナベ、敷物、やかん、なんなら、夜の私も買っていってもらってもいいよ~。」
今は、この少し歳のいった女性の下でその他色々と一緒に売られている。
「この剣は、なんだね?」
「ああ、そいつはかつての英雄『カイン』が使ったとされる『鴉』・・・・・・の紛い物さ。
縁起物なんで、一緒に置いてるけど、二束三文のものさ。」
「ふむ、では売り物ではないのか、それならあきらめるとしよう。
縁起物を買って、売れ行きが落ちたとかあったら、申し訳ないしな。」
どうやら、お守り扱いだったらしい。
今迄の主人の扱いが、闇から表にでるにしたがってぞんざいになっていて、この程度の話でも嬉しくなっている自分が少々情けなくもあった。
「いいよ、売るよ!
そうだ、何か買っていってくれたら、一緒につけるってのはどうだい?」
「そうか、それなら全部もらうよ。」
「・・・・・・えっ?」
女主人は呆けたように返事をかえすが、男・・・・・・すでに初老の域に入っているであろう男は大量の金子を出して商品を全て買い取ると改めて言う。
夜に関しては、妻に悪いとのことで断り、女主人はホクホク顔でその場を離れていく。
「ふむ、安いぐらいなんだがな。
この『神鉄』と『隕鉄』で出来た剣、間違いなく『鴉』か、それに劣らぬものであろうよ。」
初老の男は、クラインといった。
既に妻には先立たれており、武器防具の店を趣味で営む商人であった。
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「ふむ、こいつは作りはいいのに、柄が悪いな。
これは、全体的に軸がズレておる、大量生産品のようじゃな。
なんじゃこれは、宝石を散りばめおって、これでは持てんではないか・・・・・・しかも不純物交じりの屑宝石を貼り付けたものじゃな、まったくなげかわしい。」
クラインの店にきて、私は他の物品と一緒から離されて、ほかの、特に武器の類を一つずつ鑑定していく。
その姿は、長年道具と付き合ってきた男の、物言わぬものとの真剣な会話であった。
-カララン、カラン-
誰かが店の扉を開けて入ってくる。
ここはお店だ、当然入ってくるのは客以外ありえない。
「ここだここだ、ちょっと高いけど良い物が揃っているんだ。
おれのお墨付きの武具屋だぜ。」
「あそ、んでお金はだしてくれる?」
「おいおいおいおい、冗談はよしてくれ、彼女でもないのに何でおれが金を出さないといけないんだ?」
男はそこそこ熟練の冒険者のようで、もう一人の女性は駆け出しのようだ。
「わかった、それじゃそこの安いナイフする。」
「おい! おまえ戦士になるんだろ?
ナイフじゃなくてロングソードとか買っとけよ。」
「無理、金が足らん。
それに今のものものある。」
男のほうは頭を抑えて、女性のほうはナイフを指差した状態で、クラインが顔を出す。
「はい、いらっしゃい。
何か捜し物ですか?」
二人の声は聞こえていたのだろうが、クラインは何も知らずに出てきましたよという風体で接客する。
「ああ、どうもクラインさん。
お世話になります。
今日は、駆け出しにこの店を紹介してやろうとおもったんですがね。」
「無理、背丈にあったものを買うべき。
けど、一品いいものを持つのはいい、だから、そこのナイフくれ。」
「おまえ、もう少し愛想を良くしたらどうだ?
クラインさんだってまけてくれるかもしれないぞ!?」
クラインはにっこり微笑むだけで、否定も肯定もしない。
そして、女性の求めるナイフを取り出す。
「これはスタンダートなナイフですが、丈夫で下手な剣より長く持ちます。
解体等にも使えますが、副武器としても十分な剛性を持っておりますよ。」
「ありがとう、じゃ、買う。」
「ああ、そうだ。
新規のお客さんのために、おまけをつけてあげよう。
先程まとめ買いをしてきたところなので、好きなものを3点ばかりもっていってください。」
先程、露天で買って私を含めて武器を除いた荷物をひろげる。
大したものはないが、駆け出しの冒険者なら多少は足しになるものが多々入っている。
「おお、タイミングよかったな。
クラインさん、おれもだけど、こいつもよろしく。
筋は悪くないから、すぐに常連の一人になるとおもうからさ。」
「すまんな。
しかし、こんな店常連なんてものはおまえさんくらいだぞ。
高いし、品揃えもマチマチだしな。」
「何言ってんですか!
同じものでもここで買うと持ちが違うと評判いいんですよ。
ただ、やっぱり懐具合で足が遠のく事は多いのですが・・・・・・。
それでも、命の値段にはかえられませんぜ。」
それにもクラインは笑うだけで、特に否定も肯定もせずナイフに手入用の油もつけて女性に渡す。
「ありがと、クラインさん。
報酬たまったら、またくる。」
「ああ、まっているよ。」
女性は特に男を待たずそのまま店を出て行く。
「はあ、マイペースな女なんだ。
気を悪くしたならすまないな。
さてと、今日は掘り出し物はあるかい?」
男は残り、新しくはいった武具の説明を聞いたら、また今度と何も買わずに出て行く。
欲しいものがなかったのだろう、無理に何か買う必要もないし、クラインも趣味でやっている店、たいして引きとめもせずに「またのお越しを」と一言返すのみだ。
「さてと、つづきをするかの。
ほう、これは鍛造で作られた包丁だな、案外良い物がまざっておる。」
クラインは再び武器の鑑定に入る。
「うむ、おぬしは『交渉次第』としておこう。
値札はつけずに、ピカピカにして置いてやるかな。」
私は、この時初めて豪奢なガラスケースというものを知った。
その中に入っている黒く光る私はとても美しかったそうだ。
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私は毎日クラインに磨かれ、ショーケースの中に飾られた。
時として、その姿に一目惚れしてクラインと交渉をするものもいたが、希望の値まで落ちることはなく、あきらめていく。
そういう、眼力の確かな人も数人は居た。
しかし、大半は反応がない程度でいいほうで、あからさまに馬鹿にする声も上がる。
「ああ、あれかぁ。」
「たくさんあるぜ、なんでも英雄のレプリカだとか。」
「俺だったら恥ずかしくて、飾れねー。」
「あのじいさんも歳だしな、騙されたか?」
「んじゃ、そろそろあの店も仕舞いか?」
などと無責任な話が流れていく。
どこぞの骨董屋のように目垢がつくとかケチなことを言わず、芸術の域にまでたどり着いた私を皆にみせてくれる、その心づくしを誰も理解しようとしなかった。
「はあ、あのじいさんはもう駄目かぁ。」
かつて、駆け出しの冒険者を連れてあの武具店を訪れた男は、私が飾られてから足が遠くなってしまい、噂に身をゆだねるように別の武具店に行くようになった。
そして、あのころ連れて行った駆け出しの冒険者は、この冒険者の店にはもう来なくなっていた。
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「おやじ、いるか?」
閑古鳥の鳴いているクラインの武具店に、仕立ては良いが一見して高価と分からない上等の服を着た女性が入り、大声で主人を呼ぶ。
「はいはい、なんでしょうか?」
実はまだ開店しておらず、いつもの習慣で私をショーケースに入れる前に磨いていたため、持ったまま出てきてしまう。
「主人、その『鴉』私がもらう。
値は言い値で買おう。」
女性は、かつてナイフ一本だけ購入していった元駆け出しの冒険者だった。
女性はあれから、のちには名家となるほどの成果を上げていた。
そして、女性はクラインの武具店の噂を聞いてないわけではなかったが、自らの眼力を信じた。
一度だけ店でみたクラインその人を信じていたのだった。
私はこの女性に買われていき、他に多くの物言わぬ仲間といっしょに彼女の家を盛り立てていった。
やがて、私はこの女性を始祖として始まった名家の剣として飾られることとなった。
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若者は露天でナイフを一本買っていた。
冒険者なら誰でも一本は持っているような、たいして高価でもない使い込まれた品だ。
しかし、そのナイフは幸せそうだ。
かつての主人に使い込まれ、そしてまた新しい主人に出会う。
道具として生きる、私たちは使われる幸せで生きているのだ。
流れが速すぎな気がしないでもないけど、人物はすぐいなくなるからなぁ。
無機物が主役だと、物語内の時間感覚が異常に長くなってしまう。