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岩にいる時

前回投稿、予約になってなかった。

失敗したー。

若者は岩石像ロックゴーレムと対峙している。

かつての持ち主、大騎士ならばさほど手間もかからず倒せるだろう。

しかし、未熟な若者はこともあろうに間接ではなく、岩の面があらわな腹に向かって突き刺す。

普通ならばここで刀が折れておしまいだが、私ほどの刀になれば何の事はない、多少の衝撃は発生しつつも岩に突き刺さる。

若者は、刀に衝撃が伝わったせいか慌てて手を離してしまう。


かつて私は暫くの間、このように大岩に突き刺さって年月を刻んだ事があったことを思い出す。


---

あれから、オータイと多くの人間、生物、魔物といった輩を斬り屠っていった。

殆どが、不意打ちに近いもので、かつてオータイが目指した剣豪とは似ても似つかぬものだろう。

数年で、殺人鬼として手配され、十年間もの間、町やら村やらを渡り歩いて捕まらずにいた。

そして、オータイと共にとある村に訪れていた。


「ふう、ここまでくれば何とかなるであろう。

 流石にもう、獣の肉は食べ飽きた。」

草臥くたびれ、痩せ細り、しかし目だけはギョロリとした強い光をたたえた状態で村を睥睨する。

食事は出来るがそれ以上に私を使うことで消耗し、睡眠中も常時緊張を保ったままになってしまいこの十年間オータイはまともに休めていない。


しかし、疲れきった身体ゆえか、それとも私が満足できるだけの肉を斬ったからか、オータイの目は昔の剣豪を目指していたころに戻っていた。

強い光とはいっても、普段に比べれば幾分か弱い人間を越えていない目の光りかただ。


「シンよ、これは確かに世に出してよいものではないな。

 我が惚れた刀が、守り刀として使われていたものが妖刀とはな、ふふ、悪名ばかりが連なるわ。

 ・・・・・・いや、我の意思が弱かっただけか、それを刀のせいにするなど、はは、今の我に相応しい。」

自虐し、自嘲し、村の大通りを通り宿屋に向かう。

ちいさな村で、ここには冒険者の店などはなく、少なくとも今日一日はやわらかい布団で寝られそうだと気持ちを切替える。


---

「貴様等、何故!!?」

オータイは宿屋で眠っているところを襲われた。

普段から研ぎ澄まされた感覚は、柔らかい布団にあっても衰えるどころか、違う環境にあってかえって研ぎ澄まされていた。

しかし、身体はゆうことを聞かずそのまま相対することとなった。


「何故だと?

 この殺人鬼が!!

 貴様のその格好を見てまともな客だと思う奴はいねぇよ。

 宿屋の主人が密告してくれた、これで賞金は俺達のものだ!」

オータイは一体何を言っているのか理解できなかった。

面相は水を飲む事があり、見る事があり、酷い面になったことを自覚していた。

しかし、それで悪人と決め付ける程世の中はすれていないはずだ。


顔だけを見れば確かにそうだろう、しかし自らが身につけるものには乾いた血痕が大量に付着しており、全身鈍い鉄錆色をして、それだけならまだしもその衣服からは腐敗臭を放っていた。

それに、私はしていたのだ。

村を巡回する自警団らしき者達を飲み干して、満足していたのだ。


そして、その事に今際の際にも気付く事無く、難なく首を斬られる。

あたりまえだ、私が力を注いでいなかったからだ。

十年間よくもった、しかし私にはオータイの命が限界に来ていることに気付いていた。

幼い子供が壊れたおもちゃを捨てるように、幼い精神の私は、持ち主はおもちゃていどの認識しかなかった。


道徳を知らない、知らされない幼子のような精神の私にはそうすることに何の感慨もなかった。

「ワレをモッテイケ。

 コノオトコをタオシタ、ワレはオマエのモノだ。」

冒険者の戦士であろう男に向かって声をかける。

この時、男は私をの声が聞こえたかどうかは永遠に不明だろう。

なぜならこの時同時に、村に緊急を知らせる鐘がなったのだ。

-カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!-


「うぉ、なんだ?」

「おい、親父、この鐘はなんだ!?」

宿屋の親父は扉の前にいた。

どうやら扉からオータイが逃げないように抑えていたらしい。


「へぃ、これは、これは!

 たいへんだ、盗賊団に襲われている!」

オータイを倒した男達は顔を見合わせて、頷く。

オータイの首を切り取り、その場に放置して逃げていったのだ。


---

「ひゃあっはははあ!

 あの殺人鬼さまさまだぜ。

 邪魔な自警団を片付けてくれて、おかげでたんまり稼げたぜ。」

村がどうなったのかは私には分からないが、この盗賊の頭目とおぼしき男に持っていかれたようだ。


誰が持ち主でもこの時の私にとってどうでもよかった。

この頭目、名をタイレルというが、一点を除けば私には都合のよい男であった。


何もしなくても、定期的に商人を襲いかならず一人は斬り殺していた。

そのときの刀は常に私だった。

どうも、殺人鬼が持っていたというのがお気に召したらしい。


そして、今日も商人らしき馬車を襲っていた。


「さあさあさあさあ、泣く子も黙るタイレル盗賊団の登場だ。

 護衛もつれず、御者一人ってことは、罠か? 罠だな、あいつら馬鹿にしてるよな?」

「へぃ!、オカシラ、あいつ等はきっと商人の誰かが依頼した冒険者ですぜ!」

「だーよな。

 あんなのにひっかかる馬鹿野党と同じ扱いか、まあいい、あいつ等倒して名を上げようぜ!!」

「さっすがオカシラ! いっつも言う事がかっこいいや!!」

私としては、こいつらが殺されても別の人間に使ってもらえばいいだけだし、力を貸すことはなかった。

それに、正直こいつらの刀扱いの酷さには我慢の限界がきていた。

肉を斬らせてくれて、血を吸わせてくれるのはいい。

しかし、私を包丁代わりや鋏代わりにつかい、手入はせず、時には酔っ払って峰を岩に叩きつけたりしてくれていたのには辟易していた。

私を雑に扱う、その一点が我慢の限界まできてたのだ。


腐っても盗賊団、それなりの戦略で商人風の馬車を火矢で攻めて部下に囲わせる。

それでも、相手が悪かった。

冒険者の中でも一騎当千といえる実力者が3人出てきた事で詰んでいた。


各種武器術/魔術/格闘術 それらは人間に人間以上の能力を与えて、今尚廃れていない。

寧ろ、研究され練磨され、現代の術は古の術よりも余程効率化されている。

そして、彼等は現在魔術の礎を作った者達と歴史にも記される程の実力者達だった。


相手の事を確認せず蛮勇を格好いい等と言っていた奴には当然の報いがくるだろうと思っていたのだが、それは敢え無く裏切られる事になる。

タイレルは、古いダンジョンを改装してつくったアジトにまで逃げ込み、食料等を保存した湧き水のある隠し部屋に篭ってやりすごしたのだ。


「っち、俺もヤキがまわったか。

 まあ、一ヶ月もここに居ればほとぼりも冷めるだろ。

 部下はまた集めたらいいや、あぶれものなんてどこにでも居るしな。」

タイレルの楽観は、残念ながら叶わなかった。

盗賊のアジトとあって、冒険者が探索に何度か訪れる事があった。

それは、半年以上続いた。

隠し部屋には一年以上持つだけの食料があったが、二ヶ月も経った頃に湧き水が出なくなったのだ。

人間、食料よりも水分が無い方が持たない生物だ。

用心深くためておいた水も尽きる前に、タイレルはイラついたように湧き水がでていたところに私を突き刺すようになっていたのだ。


そんな事をしても水が再度沸く事もなく、狙いがそれて私は大きな岩に刺さってしまった。

-っくそ-

ちいさい呟きが力なく漏れ私を引っこ抜こうとするが、抜けない。

当然だ、私はもうこいつが持ち主であることを否定していた。

下手に喋ると何をされるか分からない事もあり、私は大岩に刺さったのを幸いに、突っ張るかのようにイメージをして岩から抜かれることを拒否したのだ。


そして、数日後水が尽き、人の気配が少なくなる夕闇の時間にタイレルはここから這い出すように出て行く。


「いまなら、大丈夫か、はは、俺は大盗賊になる男だ。

 こんなところで、死ぬかよ!」

二ヶ月以上、身体を動かさないということは、どれだけ身体をなまくらにさせるのか、知らぬわけではないだろうに、暫くしてタイレルは何処かでたれる事になる。


---

そして、私は放置されてしまった。

時間の感覚のわからぬ暗闇の中、私は大岩に刺さったまま数百年の時を流されたようだ。

私は暫く眠るように意識を離していった。


ある日目が覚めると、優男風の戦士、しかしそれに似合わぬ重厚な黒い鎧を着た男が私を掴んで引っ張っていた。

私はそれに気付くと、突っ張っていたイメージを開放する。

優男風の戦士は、いきおいよく私が抜けたことですっころぶ。


「やったー、僕が抜けたー! 抜いたんだー!!」

なんでも私が眠っていたあいだに、私を抜いたら英雄とかいう風聞が流れたらしい。

古い地図があって、そのとおりに来たら私が大岩に刺さっていて、地図には抜けたら英雄としてこの地に君臨するであろうとか、頭の悪い事が書いてあったそうだ。


なんとなく、タイレルの仕業かと思ったけど、数百年前の事で真実は闇のなかだ。


---

若者には仲間がいて、仲間とともに岩石像ロックゴーレムを粉砕し、私を取り戻す。

かつてのように意地をはらず、スっと岩から抜かれるに任せ、若者の手元にもどる。

過去のように放置される日々は、今では耐えられそうにない。


あの頃と違い、知性をもったがゆえに。

こんな感じで、これからも持ち主はどんどん変わります。

無機物主人公だからこうなっています。


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