妖刀の時
アップペースをどするか、それが今の悩みです。
若々しい、しかし技巧のない力技でもって緑小鬼を一刀のもとに屠る。
久々に、肉を切る感触を味わう。
私がはじめて生きている骨肉を切ったのは、あの時だろう。
そう、オータイという大男に連れられていって人里を訪れたときの事だ。
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「ふむ、ここはいつきても賑やかだな。
何はともあれ、食事といくか。」
オータイは背に大剣、腰に私といういかにも物騒な井出たちで街に入っていく。
街は、都程ではないがかなり大きい街で、様々な人間が通りを彩っている。
中にはオータイと同じように刀や剣を帯びた人間もそこそこいる。
戦士とはいっても、無頼者ではなく『冒険者』として登録・活動していて一般の人にも浸透しているからだ。
オータイは躊躇する事無く冒険者の店に入り、フードスペースのような区画に進み簡単な食事をとると、余り人の居ない窓口へと向かう。
窓口には『依頼受付』『報酬支払』『素材買取』『預かり』『販売』『特殊販売』とあり、オータイの向かったのは『特殊販売』と書いてある窓口だ。
「すまぬが、刺青者を買いたい。」
「ああ、刺青者ですか、どのようなタイプを御所望で?
軽労働、重労働、無期労働、奉仕、首と今はどのタイプでも揃っております。」
「それでは、首を3体程もらおうか。」
「分かりました、処理前のものがよろしいでしょうか?」
「ああ、それで頼む、後練習場も3時間程度借りたい。」
「分かりました、それではそちらに持っていくことでよろしいでしょうか。
後、サービスで後処理もお付けします。」
「ああ、頼む。」
特殊販売とは、道理から外れたものを買うときに利用する。
刺青者とは、罪人の事を指し、オータイは罪人を3人購入したことになる。
タイプによって違うが、首と呼ばれる罪人は一体10,000Gとかなりの高額になる。
オータイは練習場に移動して待つと、手足を縛られ目隠しをされて痩せ細った男性二名、女性一名がつれてこられる。
男性も女性も30は越えてないだろう、やり方によっては他の罪の償い方も出来たかもしれない。
しかし、そういったことはここでは重要ではない。
彼等は罪人であり、罪人としてオータイに購入された、ただそれだけの事でしかない。
そして、首とは死刑囚の事を指す。
処理前と処理後は生きているか死んでいるかの違いになる。
「お待たせしました。
少々抵抗されまして、しかしそれくらい生きのいい方が良いとおもい比較的元気な者を連れてきました。」
「ああ、ごくろう。
金はそこに置いてあるからもっていけ。」
「まいどありがとうございます。
それでは、今後ともごひいきに。」
『特殊販売』窓口の男はそそくさと練習場を後にする。
「さてと、お前等、チャンスはほしいか?」
オータイが静かな声で罪人共に話し掛ける。
「あ、ああ、お、俺は何もやっちゃあいない。
た、ただ殺されるなんてまっぴらだ、何かがおかしいんだ、あいつだあいつが!」
「なによ、財布盗んだだけよ。
なのになんで死罪なのよ。
あいつどうせ財布に入ってる金なんてたかがしれてるのに、私をこんなところに・・・・・・。」
「・・・・・・どういうことだ?」
二人は少し錯乱気味に返事を返すが、一人は真っ向から声のする方向に顔をむけ問いかける。
「何、簡単な事だ。
おぬし等は、我の新しい刀の試し斬りに使われる。
しかし、死体をいくら斬ったところで真価は分からぬ。
世間では二つ胴がどうとか言っておるが、あんなのは切れ味だけの事。
それに、斬る者が同じ人間でなければ意味がないしな。
そして、縛られて目隠しされた人間も、たいして死体と変わらぬ。」
「なるほど、俺等を自由にした状態で斬るということか。
それから逃れたら無罪放免ということでいいのか?」
罪人の男の口許が歪むように軽く笑う。
「いや、我に罪人をどうこうする権力はない。
しかし、我を打ち倒してここを出ればチャンスはあるだろう。
どちらにしても、ただ斬られるよりはいいとおもわんか?」
「違いねぇ、その話乗った!」
オータイは頷くと、練習場の脇に立てかけてあった木剣を持ってくる。
そして、返事をしていた男・・・・・・ではなく冤罪を訴えていた男の縄を切り木剣を持たせる。
「おまえは一番最後にしてやる。
二人の目隠しは外しておく。」
自分の太刀筋などをみせたうえで戦うということらしい。
そして、木剣を持たされた男は、いまだぶつぶつとつぶやいており、構えようとはしない。
「おれがわるいんじゃない、おれのせいじゃない、おれはわるくないぃぃぃいいい!!」
呟きが絶叫にかわり、持っていた木剣をそのまま片手で振り回し、オータイに向かって・・・・・・行かずに扉に走り出す。
しかし、扉には鍵がかけられている。
罪人が逃げるといけないということで、こういうときには外から鍵がかけられており、完了したら連絡して開けてもらうようになっているのだ。
オータイはゆっくりと、私を抜き放ち振り下ろす。
そのとき、私は始めて肉の中にのめり込む感触を知った。
それは、なんというか、当たり前のことがようやく当たり前になされたという喜びであった。
二度、三度と私は振るわれ、罪人の男はこと切れた。
「・・・・・・ぁあ、な、何でもしますから殺さないで、助けて、助けてたすけて!」
女は恥も何もなく泣き喚く。
そんな様子をオータイは無視して、縄を切り女にも木剣を持たせる。
しかし、女は構えようとして、木剣を取り落とし蹲る。
オータイは溜息をつき、外に連絡しようとしたところ、私は女の首を切っていた。
「えっ?」
オータイの間抜けな声が漏れる。
しかし、私はそれに構わず更に首を跳ね飛ばさんと進む。
肉を斬り、血脂をあびるべく作られた私、この時私はあるべき姿に酔っていたといってもいい。
当たり前の事を当たり前に成される喜びにより、私はオータイの手のなかではしゃぎまわっていた。
最後の男は様子がおかしい事に気付き、逃げようと後ずさる。
しかし、手足が縄で縛られている状態で逃げる事などおぼつかない。
「ま、まて、俺にはチャンスがあるんじゃないのか?!」
「ソウダナ」
オータイは声を出さず、私はこの時初めて喋った。
オータイは気持ち悪いものを見る目で私を見るが、手を離させるようなことはしない。
既に、オータイの体の一部は私のものといっていい。
「デハ、ナワをキル、ブキもモタセル。」
オータイの手を動かし、男の縄を切り木剣を構えるのを待つ。
男はそこそこの腕前ではあったのだろう。
しかし、痩せ細って力の出ない男に比べて、オータイは発展途上とはいえ若い力のある戦士であり、なにより私を持っている。
私は、男を木剣ごと斬り払った。
勝負でもなんでもない、ただの処刑だった。
そしてこの時、私は怪しく紅に染まって酔っていた。
オータイはというと、混乱しつつも我から血脂を拭き取り鞘に入れる。
しかし、この時にすでにオータイはいままでのオータイではなくなっていた。
私の肉を斬る事に対して感じた事がそのままオータイにダイレクトに伝えられていた。
オータイは、この日から人斬りとしての日々を送る。
暫くして、オータイは剣豪ではなく殺人鬼として世間の有名になっていた。
激情と共に狂喜を持ち主と共有し、力も一緒に注ぎ込んでいた。
故に、オータイは早々にはつかまらず有名になったのだ。
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若者に力だけを貸す方法を、今では覚えている。
今は大鬼と戦っており、今のままでは若者は負ける。
ゆえに力を流してやる、気付かれない程度に。
若者の体が急にかるくなり、大鬼の必殺の一撃をさける。
回り込んで、硬い胴を狙おうとするから、少し身体を乗っ取ってこけたような状態にもっていき、足のアキレス腱を切り裂く。
大鬼は再生能力があるといわれているが、単純に普通の人より怪我の治りが早いだけだ。
それに、もしすぐに治るような異常な奴であっても、一度斬られたところは完全に完治するまでは脆い。
アキレス腱を切り、機動力を奪ったら後は力任せの攻撃にのみ注意していれば大鬼など怖くはない。
無事、若者は大鬼を倒した。
もちろん、私が力を貸したことは悟られていない。
若者は、中の下くらいの強さ設定です。
今のところ。