第七章 〜着かない・想〜 1⇔
異端者だった自分は彼に育てられた。
彼は無骨な表情をしていて、なんだかどんなことを考えているのか、わからない。いつもその表情を崩さず、業務のように私に話しかけた。
彼の名前はチェイス。私をアンデッドから助けてくれた人物だった。チェイスは私に生きる知恵を様々に教えてくれた。食料調達の方法、医療技術、そして何より戦闘技術は彼から学んだものだ。
「これらの生きる知恵は結局、学ぶことによって得られる。学ばないやつは淘汰され、学ぶやつが生き残る。スクールで学ぶような知恵ももちろん重要だが、より大事なのはそれを有機的に自分の身にひきつけて応用可能かどうかだ」
彼は耳にタコができるほど、「学べ」という言葉を繰り返した。確かに、私は彼に様々なことを教わっていくうちに、自分は何も知らなかったんだと思えた。そして、いかに自分が学校の勉強を適当にやっていたんだなと、少し苦笑したものだ。
「周りは絶対に誰も助けてくれない。結局、一番頼りになるのは、自分自身だ。それを忘れるな。そのために多くのことを学べ」
彼は言った。助けてくれるものなど、絶対にいない。人が助けることができるのは自分自身だけだ、と。
「でも、チェイスは私を助けてくれたよね」
今思うと、子供のような質問だ。多分、自分が彼の中で特別だということを彼の口から聞きたいという、幼い気持ちだったのだろう。
「あれは俺の追っているアンデッドがいるという情報を聞いて、たまたまお前がいただけだ。助けたわけではない」
淡々と述べるその表情は一ミリも変わらない。
チェイスは自分の感情をまったく吐露しなかった。まるで機械のように冷たい。そしてそれはアンデッドを討伐する時も同様だった。
チェイスの聖装備は「ブラッドバレッド」。アンデッドの血によって作られた弾丸だった。彼は討伐したアンデッドの血から銃の弾を作り出す。アンデッドはアンデッドの攻撃はダメージを受けてしまう。それを利用した武器だった。故に彼は「無情の鍛冶屋」という異名があった。
「これも俺が生き残るために学んだことだ。基本的に俺たちアンデッドバスターたちの戦い方は近距離戦闘になってしまう。それはそもそも聖装備が大量生産ができるようなものではないことによる。だから、それをどうにかするために俺がとった方法だ」
私はなるほど、と感心した。
「じゃあ私も拳銃を使いたい」
「ダメだ」
あっさりと一蹴されてしまう。少し不本意だった。私もチェイスと同じように戦いたかったのに教えられていたのはずっと基本的な格闘戦術だったからだ。
「お前はまずは基本的な体術から学べ。拳銃はそれ自体が強い力のためにその武器がなくなった時にどうしようもなくなる。だから、それがなくてもアンデッドと対峙できるような力を身につけるんだ」
私の顔は見ずにそそのように言う。
彼は一見冷徹で無情で、私のことを突き放しているように見えるが、実は私のことをよく考えていた。