第七章 ~着かない・想~ 2
すでに夜は深くなり、辺りはひどく静まり返っていた。
森を抜けるため、俺と紅染は歩を進める。
霧と雫は先に行ってしまった。どこか一緒にいるのが気まずかったのだろう。だから、今は二人きりだった。
しかし、そんな紅染はすでに身体中がボロボロでもうほとんど歩くこともままならない。
「大丈夫か、紅染? ひどいようなら、少し休むけど……」
「心配はいらないわ。このぐらいの怪我、慣れっこだから」
そのように言うが、やはり大丈夫そうではない。紅染は隠してるつもりなのかもしれないが、槍をなんとか杖代わりにして歩いているのを、俺は気づいていた。
「……なんで、霧や雫に言わなかったんだ? 紅染が、あいつらを助けたバスターだったってことを」
「言って信じたと思う?」
俺は、苦笑する。確かに、霧はまだしも、雫はそんなこと言ったら、信じるどころか逆効果だったかもしれない。
「……それに、私はやっぱりアンデッドなのよ。彼女たちの家族を殺した人と同じ。だから、私は恨まれても仕方がないと思うし、殺されても仕方がないと思うわ」
「……! また、そんなこと考えてたのか!」
自分自身を異端として、受け入れて諦念してしまうこと。彼女はもう長い間そうして生きている。
だから、殺されるのは仕方がない。
それじゃあまるで、死にたいって思ってるのと同じじゃないか。
と、考えたところで、少し納得した。
「……紅染、もしかしてお前、『死にたい』のか?」
「……」
無言になる。
……そうだ。紅染は死にたくても死ねないんだ。だから、死にたいんじゃないか。
「……自殺も考えた。だけど自殺だって私は出来ない。アンデッドバスターになった時はこの槍の力によって自殺することも出来たでしょうね。でも、助けてもらったのに、そんな真似は出来ない。せめて、私を助けてくれた人に報いることが出来るくらいにはこの仕事をやらないとって思ったのよ」
紅染は笑うが、俺は笑えない。
「だけど、その人ももういなくなってしまったわ。私がこの仕事をする意味はそれでもう一つ消えてしまっている。だから、私を殺したいと思っている『人』がいるのなら、それでもいいかなぁって思ったの」
自分自身が異端ということに彼女は心底疲れきっていた。
ボロボロなのは身体だけじゃない。心はもうずっと前から傷だらけだったのだ。だから、死にたい、と考えていた。
……そんなのあんまりだと思った。
紅染はアンデッド以前に普通の女の子だ。人並みの感性を持っていて、一緒に笑うことができる。それなのに、アンデッドになってしまった彼女はそんな生活すらも満足におくれない。
「……紅染……」
そんなのおかしいと思う。
だから、俺はそれを否定する。紅染にだって、人並みの生活を送ることはできるはずだ。
だから、一緒に学校へ行って、一緒にしゃべって、一緒に笑う。
そう。そんな生活を送ればいいじゃないか。
「――それなら」
そんなことを説得するために口を開いた瞬間だった。
「――それなら。望み通りオレが殺してやろう」
闇夜に深く低い声が響き渡り、刹那、紅染の身体から鮮血が飛び散った。