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第六章 ~知らない・程~ 5

 辺りには血潮が迸り、鮮やかなる色を塗りたくる。

 血の飛沫。死の息吹。

 噴水のような鮮血が四方八方に飛び散り、何もかもを染めてしまう――



――そんな光景が目の前にある――はずだった。



 しかし、最初に聞こえてきたのは高く響く金属音。雫の刃は標的のはるか前で動きを止めている。

 もちろん、故意にではない。

「な……兄さん?」

 自らの武器を盾にして、その攻撃を防ぎながら立っているのは、先ほどまで黙って見ていた霧だった。霧は雫と対峙して、その攻撃を妨げていた。

「雫、止めろ」

 一言、霧はそう紅染に指示する。だがそれでも、雫は腕にこめた力を緩めない。

「どうして……何で兄さんはこいつの肩を持つの? この女はアンデッドなのよ? 私たちの家族を……幸せを奪った奴らの仲間なのよ? 兄さんなら分かるはず……いいえ。兄さんだから分かるでしょ。アンデッドがいれば、またあんなことが起きてしまうのよ? またあの地獄が、どこかに現れるかもしれないのよ……」

 今にも泣きそうな声で、そう呟く。唯一の肉親で、唯一自分のことを理解してくれるだろう兄と、今はなぜか対立している。

「雫、それは、紅染がアンデッドバスターだからだ」

 険しい表情をしながら、霧は雫を見据える。その言葉は、屋上で俺に言ったものと同じ。『紅染はアンデッドバスター』であるという事実。

「それでも、それ以前にアンデッドじゃない!」

 大声で、自らの主張を届かせようとする。自然と刀に入れる力も強くなる。

「まだ気づかないのか、雫!」

 いきなりの一喝に力を入れていた腕が緩む。そしてその顔は、その突然の兄の怒りに対する驚きへと変わっていた。

 そして霧は振り返る。倒れている紅染を、見下げる形をとりながら。しかし、本当に敬うような眼で。

「『誰かを救う』か。その言葉を初めて聞いたのは、十年ぐらい前だったな」

 それは紅染に言っているわけではない。ただ、遠い昔の過去へ向かって、そんな風に詠んだのだ。

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