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第六章 ~知らない・程~ 4

 戦いはまさにワンサイドゲーム。

 雫は刀を四方から振りまわし、それを紅染は防ぎ、避ける。

「――ふっ!」

 力強い一撃が紅染を襲う。

「っ――!」

 それを流すように受ける。

 まさに防戦一方。傷が癒えてないのか、動きも俺が見てきた紅染よりも幾分か鈍い。こんな一方的なもの、勝負じゃない。暴行だ。

「雫、もう悪ふざけは止めろ! もういいじゃないか。紅染だって同じアンデッドバスターだろ!」

 言葉でしか何かできない自分を情けなく思いながら、雫に向かってそう叫ぶ。しかし、雫は攻撃の手を緩めない。

「アンデッドとアンデッドバスターは対極よ。極端なまでの対立物。陰と陽、闇と光、ネガティブとポジティブ。まるで水と油ね。それはそこに『溶けこむ』ことも『まざる』こともできない」

 一度剣を納めて、抜刀。水しぶきが紅染を襲った。紅染はコートを盾にしてそれに触れないようにする。しかしその隙をついて、雫は一気に間合いを詰める。

「そんなものが水に入ったらどうなると思う? ただ浮いているだけ。結局それは同じ液体だけど、違うものなのよ!」

 そして渾心の力で高く振り上げた刀を、振り下ろす。

 それでも、紅染は攻撃を槍で受けとめる。体勢は低く、歯を食いしばりながら。そして数歩後ろへ下がり、構える。止める気など、雫にはさらさらない。

「――霧!」

 俺は霧を睨みつける。しかしそれでも霧は何も動じず、ただ腕を組んでその様子を見守っているだけだ。

 どうしようもない。ならば、俺が雫の前に出て紅染を庇うしか――

「来ないで」

 走りだそうとした瞬間に、紅染は俺にそう言い放つ。肩膝をついて、槍を杖代わりにして立ち上がりながら。

「これは私と彼女の問題よ。カイトはそこで見てて」

 苦しそうな、それなのに笑った顔でそう求める。

「ひとつ、聞きたいわ」

 そして紅染は、雫に向かって口を開いた。その突然の言葉に、雫は少し驚いたが、刀を下ろし、構えを解いた。

「何かしら? 私から助けてもらう方法でも聞きたいの?」

 嘲弄するように、雫はそんな言葉を発する。

 しかしそんなことには構わず、紅染は雫を――否、確かに雫ではあるが雫ではないどこかを――見て尋ねた。


「貴方たちは、なぜアンデッドを倒すの?」

 

 力強い視線が、雫を貫く。

 その問いに雫は少しばかりたじろいだ。

「な、何よ、それ。アンデッドバスターだからアンデッドを倒すなんて当然のことでしょ」

「私が聞いてるのはそんなことじゃない。もっと根本的なことよ。なぜ貴方はアンデッドバスターになったの? なぜアンデッドバスターになってアンデッドを倒そうと思ったの?」

「そ、それは……」

 雫は視線を逸らす。霧を見てみると、それほど慌ててはいないものの、同じようにその言葉に驚いている。

「ただ無闇にアンデッドを倒す。確かにそのようなアンデッドバスターも私は見たことがある。でもその人たちは全員破綻していた。例えるなら、赤子。本能に忠実で、駄々をこねているだけ。復讐や発散。自分自身のためのその行動原理。それは欲望で動いてるアンデッドと何が変わるって言うの」

 それは事実、的を射ている。例え在り方は違えど、その方向性はどちらも同じ、自分自身のため。

「違う……」

 小さく、それでいて比重のある声で、雫はつぶやく。

「私たちは、決して復讐のためにアンデッドを倒すわけじゃない」

 そして、弾丸の如く、間合いを詰める。

 それを見て、紅染はどこか喜ぶように、顔をほころばせる。

「私たちは、あの日の光景をもう見たくないから」

 凄まじい斬撃が紅染を襲う。それに対して槍をうまく使い全てを受けきる。

「あんな……あんな怖いものをもう見たくないから」

 さらに力をこめて、横に薙ぎ払う。紅染はそれを、身体を引いてギリギリのところで躱す。

「もう誰にも……」

 しかしまだ詰める。再度、一斬りを刻みこむため、刀を鞘におさめた。

「誰にもあんな思いをさせたくないから!」

 そして刀を抜く。抜きとった刃は真横に薙ぎ払うのではなく、一度大きく振りあげられる。そして、落とされた。

 その攻撃に耐えきれなかった紅染は槍を手から離してしまい、地面に倒れこんでしまう。

 そしてそのまま、剣先が紅染に突きつけられた。

「おしまいね」

 穏やかな声で、紅染は囁いた。

「私は――自分のためなんかで戦わない。私は人を、誰かを救うために戦う」

 息を切らして、雫は紅染を強く睨みつけた。

「それでいいわ。誰かを救うために戦う。その心があれば、人はいつだって強い。そうね、これでもう後悔はない。さあ――殺しなさい」

 そして雫は刀を持ち上げる。俺ももう我慢できない。さすがに止めに入らなければまずいと悟る。

「止めろ、雫!」

 地面を蹴って走る。しかし、もう遅い。紅染はそれを受け入れ、雫はすでに振り下ろすモーションに入っていた。

 そして――ヒュッという爽快な風切り音が、耳に入ってきた。

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