第六章 ~知らない・程~ 2
「そしてその後、私はアンデッドバスターとして生きることを決意した。勿論、アンデッドバスターになってからも苦難はあったわ。アンデッドがアンデッドバスターになるなんて異例中の異例だからね。それでもそれは、私の一つの道だった。その苦行を乗り越えていくうち、私という存在が見えるようになってきた。そして、今、私はここにいる。カイト。貴方と出会っている。そう。これは遠い思い出の話。今という未来に繋がっている、私の昔話。これが、私がアンデッドに、アンデッドバスターになった理由よ」
その視線は真っ直ぐ俺を見つめてはいない。紅染はどこか遠くを見るような、哀愁に満ちた目をしていた。
紅染は自身の過去のあらましを話した。それはほとんどかいつまんだものだけど、その重みは計り知れないほど俺に圧し掛かっている。
「なんでだよ……」
心から沸々と湧き上がってくる感情がそこにあった。それは紛れもない、自分自身から出た感情。
「それじゃあ、紅染は悪くないじゃないか。無理矢理アンデッドにさせられて、自分自身は望んでもない身体を手に入れて……」
おまけにそれを知らない奴は、紅染をアンデッドと見なし、殺そうとしている。
「何も自ら望んでない人が、どうしてこんな目に合うんだよ……」
思えば、紅染は全てを自ら望んでいなかった。この街に来たのだって、学校に通うのだって、戦うのだって、アンデッドバスターの任務のため。
そう。服だって。紅染は私服なんて持っていなかった。結局、私服を買うのも私利私欲。自分のためになってしまう。
だから――服を買ったあの時、あんなに嬉しそうな顔をしていたんだ。
無邪気で、本当に嬉しそうな笑顔を。
「カイト。結局はね、『結果』なの。私がどういう『過程』を経てアンデッドになったとしても、それを知らない人たちにとっては、そんなの区別することなどできない。だから私にあるのはその結果だけ。過程なんて無意味なの」
物憂げに、紅染は視線を地にやる。そして微かな笑みを持って自嘲する。
紅染は結果的にアンデッドになった。その紆余曲折は誰も知らない。知らないから、結局、それは他のアンデッドと同じ。あまりに大局的な線引き。そこに過程が介入する余地などない。過程など他人にとって何処にもない、目に見えない虚構なのだ。
故に過程など必要ない。だって結局認知されるのは、アンデッドという結果のみなのだ。
だからこそ紅染は自分の過去を話すことを拒んだのか。言ったところでアンデッドという事実は変わらないから。
「それでも……」
それはどれだけ損な役回りなのか。自身をアンデッドと受け入れて、自身を殺そうとする者も受け入れる。そんなの報われなさすぎるじゃないか。
だから、俺は、それを否定する。
「それでも、俺は、その『過程』があるから、こうして紅染を見れる」
その一言に、紅染は伏せていた顔をこちらに向けてくる。
知らなかったら見れなかった。知ったことで見えるようになった。しっかりと、そしてはっきりと。
「紅染がアンデッドって聞かされた時から、ずっとモヤモヤしてた。誰かのために献身し続ける紅染が、どうして欲望にまみれた人間の果てにある、アンデッドなんかになったのかって。でも、それを、その過程を聞いて俺のこの気持ちが払拭された。だから「結局、結果」なんて嘘だ。過程があるから、俺は紅染を見れる」
確かにそこにあるのは結果だろう。「紅染リオンはアンデッドである」。周りから見たらその結果しか残らない。
しかしそこに至る過程故に「紅染リオンは紅染リオン」なのだ。その過程をなくしてしまえば、きっと誰にも理解されない。その過程があるから俺は紅染を理解できる。
「少なくとも、俺にとってそれは意味あるものだ。だから――」
俺はその足を動かす。前へ、前へと。
そして、紅染の顔を直視して、強気を持って笑顔を作ってみる。
「俺はお前を信じるよ」
反響する言霊。
その言葉を聞いて、いつもどこか強気だった紅染は目に涙を溜める。
そして俺を強く抱きしめた。