第六章 ~知らない・程~ 1⇔2
それから彼女はその城を出た。傷の痛みなどはすでにない。だけどどこからか、(いや、それが胸のあたりからわき上がってくるものだと理解していたが)ずきずきと少女を苦しめていた。
少女の居場所はなかった。天国や地獄さえ受け入れてくれない。そんな者を幽霊と呼んだのは、一体、いつの誰だたったのだろうか。
孤独の中、少女は自分の居場所を探し求めるように、歩き続けた。城の外は一面の森で、街などは見えるはずがない場所。その道なき道を延々と進んでいく。
そしてようやく或る街に少女は辿り着いた。その街は、人が行き交い、色んな店が出ている賑やかな場所。少女はその場所を見たとき、人知れない安堵を覚えた。喧噪、笑い声、今まで嫌悪を抱いていた馬の糞の匂いにさえも。
金はあった。なのでどこかで野宿をして過ごすということはしなくてもよい。日がな歩き続けた少女は、身体を休めるためにどこかの民宿を探しだした。
ようやく見つけ出した宿で、手続きを済まして部屋に入る。疲れきっていた少女はベッドに横たわるだけで、すぐに眠りに落ちた。そして、起きたころにはすでに日は沈み、月光煌めく夜になっていた。
そして疲れが取れたと同時に、少女は言いようのない恐怖が襲ってきた。いままでは必死に逃げることで忘れてきたそれを、ようやく少女は思い出したのだ。
自分はすでに人間ではない。
わかりきっていた事実。その現実はありえそうにない幻想に思える。しかし、それは本当のことなのだ。
そして、もう一つ。
自分は人を殺してしまった。
仕方がないことだったのかもしれない。でもそれは果たして正義だったのだろうか? あの魔女を殺していなければ、さらなる被害を出したかもしれない。しかしそれでも、あの場、あの状況下では、少女の方がヒエラルキー上では上位者だった。アンデッドと人間。その存在は、いわずもがな前者の方が強者なのだ。強者が弱者を押さえつける。それは一種の独裁のように、少なくとも少女には見えた。
罪人は罪を犯してそれと成す。
ならば、自分の方が十分罪人ではないか、少女は目に涙を溜めながらそう思った。
暗い部屋。自らの業を悔いながら、少女はその誰とも知らない何かに怯え、泣いていた。
すると、突然、窓の外から甲高い悲鳴が聞こえた。その声にただでさえ恐怖に敏感になっている少女ははっとする。
――行かなくてはならない――
そんな思いが、強迫的に少女の胸の内にわき上がってくる。だから少女は泣くのを忘れて外に駆けだす。あの城から持ってきた、一丁の拳銃を持って。