第五章 ~枯れない・時~ 1⇔2
そしていつもの日常。雫と霧はスクールバスに乗りながら、その幼稚園へと向かう。その日も二人は別々の場所で違う友達と話し、互いに話すことはなかった。
幼稚園が終わって帰宅の時になった。同じようにバスに乗って帰る。バスは雫たちの家から約二分ほど歩いたところに停車する。そして降りたところには、いつも家族の誰かが迎えに来ているような感じになっていた。
しかし、今日は違った。
「あれ……?」
そこには誰もいない。母も、父も、祖父も。
「あれ? 雫ちゃんと霧くんのお父さんとお母さんどうしたのかな?」
幼稚園の先生が雫と霧に聞いてくる。それは本人に聞かれても分からない。その二人もいつも通りのことがいつも通りじゃなくなって驚いているのだから。
「……そっか、分からないか……。だけど、家までは二人で帰れるよね? 先生は他の人のお家にも回らないといけないからここでバイバイだけど、大丈夫だよね?」
その先生が中腰になってそう聞いてくる。霧は黙って頷いて、雫は大きな声で返事をする。
「だいじょうぶだよ、せんせい。だっていつもいってるもん」
威勢良く、そう言ったのは雫だ。それを見た先生は、偉い偉いと頭をなでてそれをほめた。
そうして、バスは行ってしまう。残された二人。雫は霧のことを見る。呆と地面を眺めている、霧。そこには長く続く蟻の行進が形成されていた。
「……もうっ! 行くよ、おにいちゃん!」
そんな無神経な兄の姿に苛立ちながら、雫は家に帰ろうとする。霧は雫の後ろ姿を少し見た後、ついていくように歩きだした。
家へ二人だけで帰るのはさほど苦労しなかった。なにせ毎日のように歩いてる道だ。道がわからないはずがない。
先頭に雫が歩き、その後を霧が歩く。
会話はない。ただ二人は帰路を歩くだけ。
そしてようやく家に着く。そこは大きな一軒家。表札にはしっかりとした文字で「雨地」と書かれている。
雫はドアの前に来て、母親にもしもの時用に持たされていた合い鍵をスクール鞄から取り出す。それを挿し込み、ひねる。そしてドアを開けようとする。しかし、それは開かない。
「あれ?」
雫はもう一度、ドアを開けようとする。それでもやはり開かなかった。
「……たぶん、あいてたから、もいっかいかぎをつかえば、あくはず」
すると、後ろから霧がそう言ってくる。それに対して、雫は「うるさい、わかってる」と怒鳴りつけた。
もう一度鍵を入れて、ドアを開ける。すると今度はちゃんと開いてくれた。
「ただいまー」
そして雫は家の中に入る。
そこには真っ赤な空間が広がっていた。