第五章 ~枯れない・時~ 1
時間は勝手に過ぎていく。何もしなくても、ただ淡々と。
窓を見ると曇り空が漂っている。遅く、遅く、遅く。
現在は二時間目。何の授業を受けているなんてのはもはや分かっていない。
その前、朝のホームルーム前のこと。登校してきた霧が一言だけ、俺に言った言葉。
「昼休み、屋上で色々と話してやる」
それ以降、授業と授業の間の休みも、霧は話しかけてこなかった。
重い気分を背中に乗せて、俺は机の上にあるノートを眺めた後、その曇り空を横目で追っていた。
そして、昼休みになった。霧は先に教室から出ていく。俺はその背中を見つめながら立ち上がって同じように教室を出た。
階段を一段一段上がっていく。今にも雨が降りそうな屋上は、今日はほとんど行く人が見受けられない。
そして、屋上につくと、案の定、そこには人が二人しかいなかった。
一人は腰かけ場に座り足を組み、もう一人は柵によりかかり腕を組んでいる。雨地 雫と雨地 霧。二人は真剣な顔つきで、こちらを出迎えた。
「まあ、座れよ、カイト。別にお前を取って食おうってわけじゃないんだ。そんな強張った顔するなよ」
霧が苦笑しながらそう言った。だが、それはどちらのことだと、言い返したいほど、今日の霧はどこかおかしかった。
俺は地面に座り込み、胡坐をかく。そして雫と霧を見上げるようにして、手を前で組んだ。
少しの沈黙が訪れる。生ぬるい風が、その場を吹きつける。そして、それに耐えられなくなった俺は、いよいよ口を開けた。
「それで、説明してもらおうか。霧と雫。二人がアンデッドバスターだった理由。そして、紅染をあれだけ毛嫌いしていた理由を」
友人にそのようなことを言うのは少しだけ心が痛んだ。だけど聞きださなければ始まらない。俺は意を決して、そう言い放った。
「……まさか、お前が俺たちの正体を知っちまうとはな……。予想外だったよ」
霧はそんなことを俺ではないどこかに言うように呟いた。そして、今度はちゃんと俺の目を見る。
「いいか、カイト。ここで俺たちが言うことを聞いて、変な感情移入するなよ。俺たちは、今までにあったことをお前に話してやる。ただ、これは俺たちの歩んできた道だというのを忘れるな」
そう言って霧は少し深く息を吐き、雫を見る。それは次の言葉の合図だったのか、次は雫が話しだす。
「カイト、先に結論だけ言っておく。私が紅染リオンを殺そうとした理由。それはね、彼女がアンデッドだからよ」
理由とも言えない理由を雫は言った。そして、どこか遠くを見るように、雫は、もう一言だけつけたした。
「私、アンデッドは全員嫌いだから」