第四章 ~会えない・声~ 2⇔
何度の剣戟が繰り返されたのだろう。
残光を描き軌道を作る矛先。闇に溶解し姿を現す爪痕。
両者互角。決して退けない、圧し返し。
「――ふっ!」
隙を見つけては切り裂く。
「はぁっ!」
それを跳ね返してはまた攻める。
咲きほこるは火の花。決して日常では見られない赤い花。
「ははっ! いいぞ、紅染リオン! もっとあたしを震えさせてくれ!」
攻撃と共に放たれる言葉。それに応えるかのようにそれをはじき返す。
まだ一手足りない。このように素早く動き回る者の対処としては疲れさせてからその隙を突くのだが、一行にその体力が減っているように見えない。むしろスピードに関しては上がっているのではないのか。
しかし紅染リオンはそれでもその一手を掴むために前進する。守りに徹した時点でこの勝負は負け。攻撃こそ最強の防御だと疑わずに道を開く――!
「――はっ!」
その刃と爪は止まる。攻撃と攻撃。二つが重なり合い、せめぎ合っている。
「……そろそろか」
奇妙な一言を呟く。それにはっとした紅染リオンは後方へ飛び、間合いを取ろうとする。
同じように、セレナ・ブランアルベルも攻撃を弾き、宙に浮きながら後退する。
いったい何を考えているのか。そろそろというのはまだ奥の手を残しているということか?
一瞬のうちに色々な考えが頭の中をめぐる。そしてセレナの方を睨みつける。
だが、その時だ。
「逃げろ! 紅染!」
聞き馴れた声が、耳へと入ってくる。
それに紅染は驚いて、その少年の方を見てしまう。
振り返りざま、何かが視界に入ってきた。
瞬間、全てを悟る。が、遅い。
もうその光の線はすでに目の前。
必死に避けようと横へと飛ぼうとする。
しかし、その攻撃は直撃する。六本の光は無常に的を射る。
立ち昇る白煙は紅染リオンの姿を隠している。
アーチから降り立つ、その狙撃主。それはカンナ・ブランアルベル。ブランアルベル家の次女。そしてセレナと同じアンデッド。
腕を組みながら煙を眺めるその顔は、豪快な笑顔だった。
「はっはっは! 名高い紅染リオンともあろうやつが油断したな。いいか、戦いにおいて、伏兵のことはいつでも頭に入れとくものだぞ」
先ほどの光を放ったビー玉ほどの球体は、今は身体に纏うように宙に散らばっている。
二人のアンデッドは、相応しい闇夜の下にその存在を置いていた。
煙が段々と消えていく。
そこには足首、右肩を出血している紅染リオンが倒れていた。
「ほう。今の攻撃をすんでのところで急所をかわすか。そのところは流石と言うべきか。しかし結局、お前に反撃の術は残されてないから意味はない」
感心して、紅染を見つめる、カンナ。
朦朧とした意識の中、紅染リオンはその声を耳に入れる。
忘れていた。この街にいるアンデッドは四人。そしてその全員が仲間だということを。
「カンナ姉。約束通り、トドメはあたしにやらせてもらうよ」
「ああ。もちろんだ。まぁ、あのままやっていてもお前が勝っていたかもしれないがな。それよりも、私は……あの小僧だ」
一つの球体が拳の前へ移動する。そしてその腕をある場所へと向ける。
それは無防備な一人の少年がいる方向。九重カイト。彼女の攻撃を察知し、紅染リオンへと伝達した、人物だ。
「あのガキか。あたしがこの街で最初に捕らえようとしたやつだ。まさか紅染とつるんでたとはな」
「そうか。しかし、残念な小僧だ。こんな自分には関係のないことで命を落とすことになるとは」
そう言って、狙いを定める、カンナ・ブランアルベル。
それを聞いて、紅染の身体が反応する。
守らなくてはいけない。
自分がどうにかしなくては、その少年を殺してしまう。
何にも関係ない、その少年を。
「待……て。お前たちの……相手は、私だろう……」
槍を杖代わりに、立ち上がる。
まだ、立てる。
まだ、歩ける。
まだ、守れる。
「いい根性だ、紅染リオン。だが、私たちはお前も、あの小僧も生かしとくわけにはいかない。……終わりだ」
そして向かってくる、爪を持つ不死者。
そして光を放つ、狙撃する不死者。
そうして、激しい音が、その場にこだました。