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第四章 ~会えない・声~ 1

 昨日と同じルート、同じペースで、俺たちは探索を行う。しかし冷静になるように心掛けようとしていたが、昨日よりか若干の緊張感を漂わせていた。

「そういえば、紅染。前から聞きたかったんだけど、アンデッドバスターはアンデッドを特定できたりするのか? その……独特の気配があったりとか」

 駅周辺を歩いている時、ふと思ったそんなことを尋ねる。

「いいえ。わからないわ。ただ、何かの力を使ったらわかるぐらい。セレナ・ブランアルベルが使っていた魔法がいい例ね。それ以外は不審な動きや、かなり大雑把だけど肌の色が白いっていうのも特徴ね」

「肌の色? アンデッドは全員色白なのか?」

「色白と言うより顔面蒼白と言った方がいいのかもしれない。血の気が悪いって言えばいいかしら。他人の血を自分の中に入れるという無理矢理な行為のせいでそうなってるの」

 他人の血を自分の血にする。他人の血液を自分の体内に入れる行為の輸血は同じ血液型でないといけないのに、それをお構いなしにアンデッドは血を自らに注入する。そんな無茶苦茶の行為だ。多少なりの副作用がでなくてはおかしい。だから青ざめた顔色になってしまうのがそれなのか。しかしそれにしても不老不死との天秤に掛けたら些細なものだと思う。

「なるほど。だけど確かにその特徴あまり探すのには役に立たないな。顔が白い人なんてたくさんいるわけだし。紅染だって、そんなこと言ったら色白だからな」

 そんなことを言うと、紅染は「そうね」と苦笑いをして一言つぶやく。

 ビルから反射する日の光に照らされて、その場所は赤みを帯びている。


 また今日も終わってしまうのか。


 俺は無意識にそんなことを思っていた。

 



 

 やはりいくら探してもアンデッドらしきものは見つからない。

 時計は十一時半を過ぎている。今日も手掛かりすらなし。

街を少し離れた、栄巳川と呼ばれる川の、河川敷。休憩ということでその土手に座り込んでいる時、俺は思わず深いため息を吐いた。

「やっぱり見つからないな。向こうもこっちを警戒してるってことか?」

 紅染は涼しい顔をして川を眺めている。探索している時はまじまじと見なかったが、こうして少しゆっくりながら紅染の私服姿を見ていると、やっぱり美人なんだと思ってしまう。ジーパンとチュニックを組み合わせたその恰好。違和感というものは皆無である。

 風に流れる髪を梳かすように手を添え、紅染は俺を横目で見た。

「そうね。でも相手だって何かの目的があってこの街にいるわけなんだから、行動してれば必ず何かがあるはずよ。やって何もないより、やらないで何かあった方がいけないもの」

 何もないのが一番。なるほど、その通りだと思う。

 一昨日以降は何も起きずに済んでいる。ならば今のところはそれでいい。アンデッドを見つけ出すことよりも、三人目の被害者を出さないことの方が大事なのだから。

「そう言えば、アンデッドがこの街に来ている目的は何か知らないのか? 天敵であるアンデッドバスターが三人もいるこの街に、そんな長居をしてまで果たしたいことっていったい……」

「さぁ? アンデッドって言うのはそれこそ何を考えてるか分からないもの。それは不老不死になった時点でね」

 そう言って、紅染は天を仰ぐ。同じように見上げてみると、空には星が綺麗に散りばめられている。

 今日も後数時間歩き回ったら自宅へと帰るだろう。そして明日には親父たちも帰ってくるはずだ。そうなると次からの探索は行くのが難しくなる。まずはどう説明すればいいのかが問題だ。

 そんなことを考えていたその時。急に紅染は立ち上がる。

「? もう行くのか?」

 そんな風に聞く、俺。しかし彼女は無言。遠くの川を跨ぐ橋を眺めている。

 不思議に思って紅染の顔を覗いてみると、その顔は妙に険しくなっていた。

「……紅染?」

「見つけたわ」

 その一言で、状況を飲み込む。

 いる。アンデッドが。

「どこだ?」

「向こうの橋の下。妙な気配があった。おそらくはセレナ・ブランアルベルのもの」

 俺はその橋を見るが、その距離は約七百メートルほど。しかも暗がりなので人がいるかどうかなど見えるはずもない。

「行こう、紅染。早くしないと、誰かが殺される」

 俺もすぐに立ち上がり、走りだそうとする。だが、紅染は俺の服の袖を引っ張って、それを止めた。

「いいえ。貴方はここまでよ、カイト。後は私の仕事。カイトは家に帰って大人しくしといて」

 そして言葉でも俺を止める。その言葉に俺は少しの間、思考が働かなかった。

「ここまで来て帰れって言うのか?」

 できるだけ落ちついた声で聞く。

「そうよ。ここからは危険を伴う。この前はなんとかなったけど、今度は相手も私の存在を知っているから、どうなるかはわからないわ」

 そんな風に紅染は俺を突っぱねる。紅染の気持ちはよくわかる。これはホントに危険な戦い。だから他人を巻き込んで、万が一のことをさせたくないという思いがあるのだろう。

「……どうしてもダメか?」

「カイト、おねがい。貴方なら分かるはずよ。私が何を思って貴方にこう言っているか」

 ああ。十分すぎるぐらい分かっている。

「わかった。気をつけろよ」

「……ありがとう」

 ただ一言、そう言って、彼女は猛スピードでその場所へ向かう。

 まるで風。吹きぬけるそれは一瞬にして、そこを駆けていく。

 去りゆくそれを眺めながら、やはり俺は、ここで引き下がりたくはないと思っていた。

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