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第三章 ~落ちない・泥~ 6

 時刻は十二時を回った。人の姿もほとんど見られない。

 収穫はゼロ。俺と紅染の二人は、最初の公園まで戻ってきていた。そして紅染はこれ以上は探すのはつらいだろうから、俺には帰るように促してくる。

「明日だって学校なんだし、しっかり寝といたほうがいいわ」

「いや、まだ手伝う。言い出したのは俺の方だ。ならとことん付き合うのが筋ってものだろ?」

 こんな繰り返しを先ほどから何回もしている。一歩も引かない俺と紅染。

「……じゃあ、後一時間半よ。そしたら私も帰る。これならいいでしょ?」

 それが最大の譲歩だと呆れ気味に妥協する。

「そうだな……わかった。それなら早くまた探し出そう。時間もないからな」

 紅染は頷いて、公園を出る。俺はその後に続くように歩きだす。

 

 しかし、結果は散々。

 その後もそのような気配は見られず。俺は紅染と別れて、家に帰る。

 帰り際、

「ありがとう、カイト。一人で探索してた時より……その、楽しかったわ」

 と言った紅染の表情が印象に残っていた。

「だけど、手がかりすらなしか……」

 一日でアンデッドが見つかるとは思ってなかったが、まさかここまで何もなかったとは。

 しかし被害者が出なくてよかった。人が毎日殺されたり行方不明になっていた方が、それこそ気が滅入る。

「そうだよな。誰も殺されないのが一番だ」

 風が闇夜を駆け抜ける。どこに行くのか、それは俺にぶつかって去っていく。

 穏やか星空の下、その意志はまだ続いている。

 

 


 また夢の中。

 それがはっきりわかった。だってこれは……

 白い天井を見上げながら、俺はベッドで眠っている。

 その横でその人は泣いていて、その人は峻厳な顔で立っている。

 一人の白衣を着た人がそこにいる。一枚の色々な文字の書かれた用紙を持って、切迫した様子だった。

「残念ながら……」

「そんな……!」

「……」

 何を話しているかは断片的にしか聞き取れない。しかし何を話しているかはわかった。おそらくは『あの』ことだろう。

 その白衣の人はその場から立ち去る。残されたのは三人。俺と、その人と、その人。

「どうすれば……」

「……」

 するとすれ違いである人がその部屋へと入ってくる。背の低い年老けた男性。俺はその人物をよく知っている。

「二人とも、これを……」

 何かをその二人に渡す。それが何なのかはわからない。それだけ、靄がかかったようになっている。

「これは……しかし……」

「本当に、いいのですか?」

 黙ってその老人は頷く。それを見ると、もらった物を持って俺に近づいてくる、その人。

「嗚呼、神よ。救いを……」

 それは何処への祈りか。そう言って俺の腕にそれを近づけてきた。

 そして俺は受け入れる。

 一気に体が熱くなる。

 戻される。魂が、そこに戻される。

 遥かなる苦しみ。限りない此岸。

 なぜ、俺は、ここに、いる?

 

 そうこれは夢の中。

 それがはっきりとわかった。

 

 だってこれは俺の過去を映したものだったのだから。




「っつ……!」

 そうして蒲団から起き上がる。

 目覚めは最悪。汗がびっしょりと身体にまとわりついている。

「なんで、あんな夢……」

 ここ最近は悪夢しか見ない。うなされてばかりだ。

「はぁ。呪われてるのかな、俺……」

 しかしそんなことを言っても解決しない。仕方なく俺は立ち上がり、蒲団をたたむ。

 見ると時刻は六時。日頃の生活習慣のせいか、昨日遅くに就寝したのに寝過ごさなかった。

 そして俺は朝食の準備をするためにキッチンへと向かうことにする。

 その不安を心に抱きながら。

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