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第三章 ~落ちない・泥~ 4

 そして店内。色々な人があれやこれやと品物を物色している。そんな中、落ち着きなく目だけをあちらこちらに向けている、紅染。

「へぇ。結構広いんだな」

 見た目通り中もとても大きい。そしてずらっと並べられてるのは服ばかり。当り前といえば当たり前だが。

「にしても、やはりお買い得だな……」

 値札の表示額はほとんど五千円を超えるものはない。ブランド品といっても、安くて品質の良い商品を目指してるこの店は、少々年頃の女の子には向かないような気がした。

「やっぱ、こんな店で紅染の洋服を選ぶというのは逆に失礼だったんじゃ……」

 そう思い、ちらと紅染の方を見る。すると、

「……」

 きょろきょろと目だけをせわしなく動かしていた。

「……紅染?」

「へっ? 何かしら」

 名前を呼ばれて急に俺の方へ振り向く、紅染。明らかにぼーっとしていた。

「いや、その、ちょっとこの店は、高校生の女の子の普段着る服にしてはちょっと違うんじゃないかって思ったんだけど……」

「え……。何言ってるの? ちゃんといっぱい服売ってるじゃない」

 そう言ってまた目だけを輝かせてその服たちを眺め始める。多分この子はファッションブランドというものを知らないのだろう。

「まぁ、紅染がいいならそれでいいんだが」

 紅染はまたふらふらと歩き始め、店内の奥へと向かう。とりあえず、服の組み合わせをちゃんとすれば、元のモデルがいいのだから見栄えは良くなるに違いない。そのためにも変な服を買わないように見ていなければ。

 そして最初に紅染がたどり着いたのはトップスのコーナー。もう季節は夏間近なので、半袖などが多く置いてある。

「ふーん……やっぱ女性用はたくさん置いてあるんだな」

 感心しながら、女性用の服を見ていく。ワンピース、カットソー、ポロシャツ……。ふむ。安い割にはちゃんとした品ぞろえだ。

「ねぇカイト」

 突然紅染は俺の制服の袖を引っ張ってくる。何かと思い、振り返ってみる。

「これ、いいと思うんだけど……どう思うかしら?」

 なにやら顔をちょっと綻ばせながら、俺にあるTシャツを見せてくる。

 そこにはなにやら黄色い、へにゃへにゃとしおれたような四角形のキャラクターが、鍋の中で煮込まれているシュールな様子がプリントされていた。

「……何これ?」

「……『おあげ』ちゃん」

 ……。

 とりあえず、無言で紅染からそのTシャツを取り上げて、たたみ、元の場所に戻す。

 それを見ている紅染の表情はなぜか残念そうだった。

「さて、真面目に探すとして。そうだな。もうすぐ暑くなるし、袖の短いやつを買った方がいいんじゃないか?」

「さっきのも袖短かったんだけど……」

「これ何かどうだ?」

 とりあえずスルーして新しい服を手渡す。それは黒い生地のワンピース。

「そうね……。悪くはないかも」

 服を広げてまじまじと見ている。その様子は本当に普通の女の子だ。まるで大きな槍を振り回して、不死身の相手と戦うなんてことをするようには見えない。

「どうぞ、試着していただいて結構ですよー」

 そんな俺たちの様子を見ていたのか、近くの女性店員さんがニコニコしながら声をかけてきた。それを聞いた紅染はきょとんとしながらその服を持っている。

「着ていいの?」

「ああ。こういう店は実際に着てみて自分に合うかどうかを試していいんだよ。合えばそれを買えばいいし、合わなければ別のを選べばいいんだ。どうだ、着るか?」

 無言で首肯する、紅染。となれば試着室へ行こう。

「じゃあこっちだ。ついてきてくれ」

 俺がそう先導すると、紅染は思い出したようにある棚へと向かう。

「じゃあこれも……」

 紅染が再び持ってきたその商品を、俺はまた無言で取り、また綺麗にたたんでその棚に戻したのだった。




 そして紅染の洋服試着タイムが始まった。

 最初は先ほどの黒いワンピース。上下が一貫になったそれはかなり通気性がよく、涼しいだろう。そのような面も考慮した上で、俺はそのワンピースをまず選んだ。

 そして待たされること三分少々。

「カ、カイト……? これ、これで着方合ってるのかしら……」

 不安気に試着室から声を出す、紅染。

「とりあえず前と後ろを間違えてなければ大丈夫なはずだ」

 着た事ないので憶測だが。俺がそう言うと、少し間が開く。そしてその後そのカーテンが開いた。

「……ど、どうかしら」

 その姿に俺は苦笑いしてしまう。なにせあまりにもそれが似合いすぎていたから。

 ワンピースは最初、少し幼いかなというイメージがあったが、そのワンピースは前にボタンなどがついて、比較的タイトに出来ている。なので身体がすらっとして見えて、紅染の大人っぽさをさらに際立てているように見えた。

「いや、似合ってる。というか、うん、綺麗に見える」

 率直に恥ずかしいことを言ってしまう。しかし仕方がない。似合うと言っても、それは具体的ではないので、俺はそのように言うしかなかった。

「そ、そうなの?」

「ああ。普通に着こなせてる。やっぱ紅染はスリムだからな。そういうちょっときりっとしたのが似合うんだと思う」

「え……その。あ、ありがと……」

 紅染は小さな声でそんなことを言う。

「じゃあドンドン試着してみようか。数多く着た方がいいのが見つかるしな」

 そう言うと、紅染は一瞬戸惑った顔をしたが、それはすぐに緩んだ顔になった。

 こうして時間は過ぎていく。店の中では紅染は終始目を輝かしていた。

 そしてあれやこれやと悩んだ末に、ある上下一着を選んで買って、そして俺たちはその店を出たのであった。


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