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第三章 ~落ちない・泥~ 2

 そうしてようやく全ての授業が終わる。ちなみに霧はというと、雫の予想通り三時間目の終わりになってやってきた。

 本人曰く、

「ベッドっていうのは強力な魔力を帯びてるんだよ。あれは一度術にハマると自分の気が済むまで眠りに落ちてしまうという恐ろしいものだ」

 ということらしい。

 鞄に教科書を入れて帰る準備をする。すると前から霧が声をかけてくる。

「カイト、今日あそこ寄ってかないか? 最近駅にできたラーメン屋。噂じゃ昼とかは凄い混んでて行列ができるほどらしいけど、今の時間だったらそんなに来る人も少ないらしい。どうだ?」

 そういえば、この二日は霧はそそくさと帰ってしまい、放課後どこかによるということはしていなかった。なので霧と遊びに行くというのも悪くはないし、そのラーメン屋には俺も前々から興味あった。だが、今日は……いや、今日からはどうしてもやらねばならないことがある。

「悪い、霧。今度は俺に用事がある。また今度にしてもらえるか?」

 手を前にやってそう謝る。それを聞いて、へぇと感嘆の声をあげた後、ははーんと何か意味ありげな笑みを浮かべた。

「なるほど。噂は本当だったってわけか」

 それを聞いて、俺にはクエスチョンマークが出てくる。はて……

「ん? ラーメン屋の話か?」

 俺がそんな間抜けた返答をすると、またまた~と茶化してくる。

「ちげーよ。お前と、紅染リオンの話だ。何かお二人は付き合ってるとか、なんとか……」

「な……!」

 思わず身を乗り出してしまう。俺と紅染が付き合ってる?

「もう学年中の噂だぞ。『転校してきて間もない女子生徒をいきなりゲットした節操無き男子生徒』ってな。中にはお前をどう始末するか本気で考えてるやつもいたなぁ」

 そんなこをあっけらかんと言う、霧。ちょっと待て……。

「誤解だ! 俺と紅染は何でもないただの友達だろ」

「『友達』ねぇ……」

 霧は妙にニヤついている。その顔からは「またまた、御冗談を」と言っているのがよく見受けられる。

「あのなぁ。そんなのそいつらの思い違いだ。それにもし付き合ってたとしたら、今頃紅染と俺は一緒に……」

「カイト、さっきも言ったけど、約束忘れないでよ。公園で待ち合わせだから、あんまり遅くならないでね」

 最高のタイミングで声をかけてその場から去っていく、紅染。いよいよ俺は反論できなくなる。なぁ、だから人目をはばかる心を……。

「はっはっは。ま、青春は楽しめ、少年」

 そう言って、霧は鞄を持って教室から出ていく。

 そこには呆然自失の俺がいた。




 家に帰って、荷物を置き、そのままの恰好でその公園へと向かった。私服で行こうかと思ったが、わざわざ着替えるのもめんどくさいので、制服にしたのだ。

 遅すぎも速すぎずその歩を進め、空を見上げる。

日が沈むにはまだ早い。天気も悪くなることはないだろう。

「これから危険なことをするっていうのに、やけに落ち着いてるな」

 そう言って、俺は自身を見つめる。行動を起こそうとする意志はある。それは朝のような昂りだ。しかしよくよく思ってみると、それはやけに穏やかで、アンデッドが人を殺したことによる怒りなどでは決してない。もちろん許せない気持はある。しかしその怒りで行動を起こしてるのではないことは確かだ。

「この気持ちは、いったいどこから来るんだ……」

 そんな風に嘯いていると、公園に着いた。あんまり行きたくはなかったが、紅染が指定した場所ならしかたがない。

 そこにはすでに紅染の姿があった。そして紅染の服装もまた制服。しかもなぜか、手には竹箒を持っている。

「悪い、待ったか?」

「いいえ、そうでもないわ。少しだけここの片付けをしてたところだし」

 そういえば昨日はここで、戦闘が繰り広げられたのだ。こっち側に怪我はなかったが、相手、セレナ・ブランアルベルの方には大きな傷を与え、そこからの血流もあった。誰も寄りつない公園とは言え、それをそのままにしておくのは確かにまずいだろう。

「俺も手伝おうか」

「いいわ。もう終わったし。それに早速行動しようと思ってるから」

 そう言って紅染は箒を公園の隅に置く。周りを見るとすでに血の跡などは微塵も残っていなかった。

「それじゃ。ついてきて」

 そして紅染はそのまま、公園をでようとする。それを俺は思わず止めてしまう。

「? ちょっと待て。いったいどこに行くんだ? 目的地ぐらい教えてくれるぐらいしてくれてもいいんじゃないか」

「どこって、普通に街を歩くだけよ。千里の道も一歩から。アンデッドのいる場所も特定できてないんだから、歩きまわって、その気配を探すのよ」

 ……そうか。そういえばまだ敵のアジトもわかっていない。ならばそのアンデッドを探すしかないといことか。

「なるほど、わかった。街を二人で探索するということだな」

「ええ。とりあえず手当たり次第にね」

 そしてまた紅染は歩みを始める。それに遅れないように、俺もその紅染の隣りを歩くのであった。

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