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第二章 ~見えない・闇~ 10

「アンデッドは不老不死、そして不死身の存在。一概にアンデッドって言っても、その種類は色々。そのような魔法によってそうなった者。ある偶然のせいで、突然変異してしまった者、色々いる」

 淡々と話を続ける、紅染。俺は真剣にその話に耳を向ける。

「でも不老不死を保つためには、ある条件が必要。それは血の注入」

「? 血の注入って、血を飲むってことか?」

「いいえ、違うわ。吸血鬼とかとは違う。文字通り、注射器などを使って血を体内に入れるの。アンデッドになった者は確かに死なないし、不死身にはなる。だけどそのリバウンドか何かは分からないけど、血が体内で腐っていくの。血が腐ると酸素を運べなくなり、不老不死どころか、苦しみながらで死んでいく。不死身と言ってもそのようなことではアンデッドでも死ぬわ。その速さには個人差はあるけど、その腐朽は逃れられない。だからアンデッドは自身の力を保つため、新しい血液を定期的に注入する。そうすることによって、アンデッドはその力を保つことができる。ちなみにその腐った血液がどこに行くかはわからないけどね」

なるほど。ならばアンデッドの弱点はまずそこか。新しい血を注入させなければ、アンデッドは不老不死ではなくなるのだから。

「でもね。その生命活動のために必要なだけ血液を入れるアンデッドはいいんだけど、たまにその注入を快楽のためにするアンデッドがいるのよ。血の注入は確かに不老不死を保つ方法だけど、それをさらに引き立てようとする輩も少なからず存在する」

「なんか、欲求みたいだな、それ」

「みたい、じゃないくて、欲求よ。考えて見た方がいい。自ら不老不死になったものはそれ自体欲求そのもの。それは生きたいという欲求、欲望を叶えるためにそうなったのよ?」

 それは人間の汚らわしい一面。もっと欲しいと望む心が叶えた、本当に欲望そのもの。


 それを聞いた時、俺は胸が苦しくなる。


 この感覚はなんだろう。俺は何か、とてつもない『何か』によって、体を操られてるような気がした。

「どうしたの? カイト」

 俺の表情が険しくなってしまったのか、少し心配そうに俺のことを見てくる、紅染。

「いや、何でもない……」

 何でもなくはないのだが、そう言う。さっきから迷惑かけてばかりなのだ。こんなことでまた世話になるのは気がひけた。

 と、そういえば、

「ということは、あの女も俺の血を狙ってたってことか」

「その通りよ。彼女もその欲望を満たそうとするアンデッドの一人。しかも彼女は特殊なアンデッドで、あの結界を作ったように、魔法も使えて、なおかつ他の力も持っている。そして、私は、彼女とその仲間たちを追ってここに来た」

 そうして、紅染は立ち上がる。どうしたのかと思い、声をかけようとしたが、

「ちょっと、喉乾いたからお茶入れてくる。カイトも何か飲む?」

 少し微笑んでそう言った。長話で少し疲れたのだろう。ちょっと休憩をはさむのも悪くない。

「じゃあ適当に何か頼む」

「了解」

 台所へと行き、冷蔵庫から麦茶を取り出している、紅染。その表情は、先ほどに比べて穏やかになっていた。




「さて、じゃあ。続きを話すわ」

 グラスに麦茶を注いできた紅染は、座るとすぐに話を再開する。俺は一口その麦茶を飲み、また真剣にその話を聞き始める。

「今度は私のことね。私がこの街にやってきた理由は二つほどある。一つはさっきも言ったように、さっきの女とその仲間を追ってこの地にやってきた。それは『アンデッドバスター』として」

 また聞いたことのない単語が出てきた。アンデッドバスター。まぁ大体の感じは名前だけで想像つくが。

「アンデッドバスターは、今までの話を聞いてれば分かると思うけど、そのアンデッドを倒す掃除屋よ。近年では不老不死の術は多くの魔法使いがそれを試みるの。でもそれは明らかなタブー。倫理や道徳を無視した魔法は、魔法使いの間でもいけないこと。だからそのタブーを犯した者を断罪するのが、私たち、アンデッドバスター」

 不老不死は確かに人間が欲しいと望むもの。しかしそれは世の中の理を曲げる行為だ。ならば必然的にそれは禁忌になる。それでもそれを手に入れようとする人は多いだろう。それを裁くもの、断罪者がアンデッドバスターというわけか。

「もちろん、アンデッドを倒すには普通の武器では不可能。だからアンデッドバスターにはそれぞれ武器が渡される。それがホーリーウエポン。聖装備と言われる武器。さっきの私が使ってた聖槍・ロンケーも聖装備。その武器なら、不死身のアンデッドにも物理的ダメージを与えることができるのよ」

 なるほど、これで合点がいった。俺の刺突が無意味で、紅染の槍の攻撃が効いていた理由はそれだったのか。

 紅染は麦茶を飲んでいる。話をしている内に喉が渇いたのだろう。そして俺はふと思い出したことを聞いてみる。

「そういえば、アンデッドバスターってたくさんいるのか? さっきの女もこの街のバスターがどうのこうの言ってなかったか?」

 紅染はおいしそうに飲んでいたがそれを慌てて置く。む。少し、急かしすぎたか?

「ええ。一つの国で五十はいるはずよ。もちろん、私たちはしょうがない場合を除いて、なるべく正体を秘匿してる」

 ……しょうがないということはつまり、夜に街をプラプラしてるようなやつがいたりするようなことを言うのだろう。

「そして大体のバスターはその街にとどまっているわ。私のように特定のアンデッドを追っかけてるケースは稀。だけどバスターを統括する『組織』が命令したら、他の街に派遣するってことは多いけどね」

 大変な仕事だな、バスターと言うのも。そう思いながら、俺も麦茶をまた一杯飲む。

「今現在、この街にいるバスターは私を含めて三人。対して、アンデッドの数は四……いや、五人か……。私が探してるのはそのうちの一人、さっきの女の上にいるアンデッド。私はそいつを殺しにきた」

 ぞっとする。殺気がその室内に流れ込んだのだ。

 紅染はそのアンデッドを憎んでいる。なぜだかはわからない。いや、聞く気にもなれなかった。

「とにかく! そのアンデッドがこの街にいるってことだよな!」

 思わず、俺はそんな確認をする。それに殺気を消して「ええ」と答える、紅染。とりあえずは抑えることができた。

「……! 待てよ。じゃあ、俺たちの学校で起きた誘拐って……」

「……」

 紅染はその返答をためらう。目線をそらすのが分かった。

つまり、これは、アンデッドの仕業ということになる。

「じゃあ、笹江も……」

 想像するだけでおぞましい。しかもさっきは俺もその犠牲になりそうだったのだ。

 手が少し震える。本当に俺は運がよかった。もし、紅染が気付いてくれなければ、俺は今頃、死んでいたのだから。

「カイト……」

「大丈夫。心配ない」

 俺は平静を保つ。しかし頭の中では怒りや恐怖や後悔が入り混じっている。

「ホントに大丈夫だ。……それより、お前がここに来たもう一つの理由って何なんだ?」

 気を紛らわすためにそんな質問をする。そして、彼女は目を細めて、どこか郷愁を覚えるかのようだった。

「ちょっと会いたい人たちがいたの。その人たちが今、どうしてるのかって思ったから、私はここに来てみた」

 そう言った温かな表情をした紅染を見ると、俺の心は少しだけ落ち着いてくれてた。

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