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第一章 〜死ねない・君〜 1

 高校二年の六月。とある昼休み。梅雨というのは鬱陶しいもので、気分まで湿っぽくなってしまう。しかし三日連続で続いた雨は今日ようやくあがり、窓際に座って授業を受けている俺こと、九重ここのえカイトは気持ちのいい陽ざしに溌剌とした気持ちになっていた。

「最近は雨続きで学校に行くのも気だるかったな。ホント晴れてくれて助かった。洗濯もよく乾くし」

「お前は専業主婦か何かか? 洗濯物の心配をする高校生がどこにいるんだ」

 俺が話しかけた前の席の椅子を逆向きで座っているそいつは、呆れたような眼でこちらを見ていた。

 そいつの名前は雨地霧あまちきり。高校に入ってからの友人であり、高校一年・二年と同じ組にいるクラスメートである。

「一応家事全般、うちは一週間ローテーション制で回してるからな。今週一週間は俺の番で、三日連続で雨降ってたから部屋干しで困ってたんだよ」

 そういうと霧はご苦労なことで、と手をひらひらさせて、いかにも「めんどくさい。そんなことやらせる家の気がしれない」という顔をしていた。

「まったく……意外と楽しいんだぞ? 料理作ったり、掃除したりするのも。それにお前んところも今は両親不在で雫と二人なんだろ? だったらお前も家事はするんじゃないのか?」

「おあいにく、家事は全て雫がやってる。俺の出る幕はない」

 勝ち誇ったようにいう、霧。だがしかし、俺の目線から見えてる人物は、霧からは見えていない。

「偉そうに言っちゃって。一体誰のおかげでご飯が食べれてると思ってるの?」

 と、後ろから霧の制服の襟を、ぐいと掴む学友が一人。霧は椅子ごと体を持っていかれている。

「痛いな、雫! 放せ!」

「はい」

 言われた通りに手を放すと、霧はバランスをとれなくなり、そのまま後ろへ頭からダイブ。ものすごく痛そうだ……。

「雫、お前、覚えてろよ……」

「兄さんこそ、今日の夕食は覚悟してね。たっぷりのトマトを使ったトマトスープでも作ろうかしら?」

 対霧用有毒食材であるトマトを武器に、その保持者は笑顔でそう言った。そんな子供じみた脅迫に、青ざめている霧も大分滑稽だった。

「まぁ許してやれよ、雫。本人も悪気があって言ったわけではないし」

「悪気があって言ったら、それこそひどいわよ。カイトも変なことを兄さんが言ったら叱ってちょうだい」

 大きなため息を漏らして、そう嘆いたこの女子生徒は、雨地雫あまちしずく。霧とは双子の兄妹であり、俺の友人だ。ちなみに二人は全く似ていない。髪も霧は癖っ毛なのに、雫は綺麗なほどのストレートで、左右をゴムで結んでいる。似ているところといえば運動神経がいいところぐらいだろうか? 二人とも校内でも右に出るものがいないほど運動が大得意。しか両方とも部活には入っていないという変わった人物だ。

「まぁ、今度気づいたら言っておく。そういえばどうしたんだ、雫? 他クラスのうちにきて、用でもあったんじゃないのか?」

 そう、雫は隣のクラスの人であり、俺と霧のクラスには用があってくるとしか思えない。

 俺が聞くと、雫は思い出したような顔をして話し出す。

「そうそう、忘れてた。ちょっと兄さんを借ります」

「は? 俺?」

 ようやく座りなおした霧は驚きながら自分のことを指差している。

「はい、兄さん。少し気になることがあるのでそれの報告に」

 と、何やら不思議な雰囲気が漂う。何というかギスギスというか……。

「どうした? 何か困りごとか?」

 気になったので聞いてみる、俺。

「別に。ただ、昨日兄さんに貸した私のノートに、何やら訳のわからない古代絵のような汚らしいモノがごちゃごちゃ書かれてたのはどうしてかな~、なんて思って」

 雫はニヤリと口元を歪める。霧はそれにはっとして、おびえていた。

 確か今日の授業で霧の様子を見たら何か退屈そうにノートにグリグリ絵を描いていたような……。

「待て、雫。これには深い訳が……!」

「うん、大丈夫だよ。向こうでたっぷり聴いてあげるから」

 そしてウフフフなんて奇怪な声を出しながら、とてつもない威圧を出している。

「さあ行こうか兄さん。もちろん場所は体育館裏に決定だけど」

 有無を言わさず連行される、霧。

「悪かった! 俺が悪かったって! いやホントに! おい、助けてくれ、カイト!」

「頑張れ。お前の骨は拾ってやる」

「はくじょうものー!」

 こうして今日の昼休みは終わっていった。

 ちなみに五・六時間目、霧は早退でしたとさ。


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