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第二章 ~見えない・闇~ 8

 いよいよ事態が飲み込めない。ただ俺は紅染を探していただけなのに、なんでこんなことになっているんだ?

「なんで、お前のために死ななきゃいけなんだ……」

 会話をしながら俺はこの状況の打開策を考える。出口は、方法はわからないが塞がれた。目の前には俺を殺す気である。

 相手は女性で今のところは徒手空挙。どこからか刃物を出されたらまずいが、今の状態なら逆に俺がこの女を出し抜ける可能性もある。ただ不安要素は、女が使う謎の術だ。ただ指を鳴らしただけで、出口に透明な壁を作った、あの術。

「だからそんなのお前には関係ないだろ。ただあたしのために死ぬ。それだけ」

 俺は周りを見渡す。横には先の尖った木の棒が落ちている。

「じゃあ、別の質問だ……お前、何者だ?」

 先程と同じ質問を繰り返す。俺は不自然に見られないように、相手を避けるふりをして、その木の棒に近づく。

「だから、お前に教えてもあたしの得はないって、さっきいったじゃない。……もういい。お前みたいに話聞かないやつは、すぐにコロス」

 そう言って、少しづつ女は俺に近づいてくる。

 それを見計らう。一瞬だ。一瞬で決めなければ、おそらく相手も何らかのアクションを起こすに決まっている。

 一歩、また一歩。そして、その間合いが二メートルほどになった時、

「今だ!」

 真横まで近づいておいた木の棒を取り、俺は女に鋭利な切っ先を向ける。

 それをじっと見つめる、女。逃げもせず、まして防ごうともしない。

「え……」 

 その姿を見て、そのまま刺していいのか、と俺は疑問に思ってしまう。

 だがその勢いは止まらない。そのまま俺は、女の腹部めがけて、その木を突き刺した。

 赤い血が流れている。木を伝って滴るその液体。

 ぞっとする。今、俺は人を刺してしまった。自己防衛とは言え、俺は他人を傷つけてしまった。

 そんな罪悪感を抱きながら、俺は女の顔を見る。

 

 その顔は歪みきった笑顔が作られていた。


「へぇ。ホントに刺したのか。そんなことできるようなやつじゃないと思ってたんだけど」

 刺されたはずなのに、声もあげず、痛そうにもしない。何が、起きている?

「でも残念だったな。『不死』の前には内外傷ほぼ全てが無に等しい。こんななんでもない物理的ダメージ、あたしには効かないんだよ」

 俺は驚いて、後ろに下がってしまう。それを見て、女はキヒヒと気色悪い声で笑い、その木の棒を腹部から外す。そうすると、すぐにその傷は埋まっていく。

「さて、じゃあ今度は私の番。あーあ、この服気に入ってたのに、破れちまったじゃないか。まぁその分、お前の血をおいしくいただくか」

 そう言って女は右腕を真横に挙げる。

 するとその腕が急に膨張を始める。まるで風船を膨らますように。

「な……」

 その膨張は体内からのもの。皮膚がちぎれる。そこから黒いもう一つの腕が現れる。ありえない大きさの黒い手。その上、指が全て刃物のように鋭利になっている。

 化け物。その表現以外思いつかない。目の前のそれは、ヒトではない。

「久しぶりの獲物だ。絶望を胸に抱かせてその血をいただく。そういえば、脳と血の味の関係は密接してるってどっかの学者が言ってたな」

 無理だ、こんな化け物に出し抜くどころか、つけいるところもない。

俺は、ここで、殺される。

 足が震える。俺はその場で情けなくもへたり込んでしまう。助かる手段は……ない。

「それじゃ、死ね」

 走り詰める。このままじゃ本当に殺される。

 間合いはゼロ。振り上げる、その腕。

 そして、そのまま、切断のため、俺に落とされる。

 終わった。

目を閉じる。時間が長く感じる。俺は切りつけられるその瞬間を待ち構える。

 

 だが、その瞬間、目の前の方から、刃と刃が交わる、激しい剣戟の音がした。


「え――」

 俺は目を見開く。そこには、一本の槍を持った人物が、俺の目の前でその手を防いでいた。

「なに……」

 背中に赤い紋様の描かれた漆黒のローブを身に纏うその人物。その姿はさながら、魔術師のように思えた。

 ローブの人は女の手を薙ぎ払うように槍を振りぬく。それに対し大腕の女は数歩、凄まじい速度で後退する。槍を片手にローブの人は、その反動を使って俺の少し横へと移る。

「くそっ。黒のローブに、その力。まさかホントにバスターに遭遇するとはな……。おい、お前。ここを管轄するバスターは確か二人しかいないはずだ。しかもその二人はヘッドが引きつけている。お前、どこの誰だ」

 そのローブの人は、答えるように槍の切っ先をその女に向ける。柄は黒く何も感じさせない色なのに、その矛の部分は鮮血のように強すぎる紅を謳う。

 その色に鼓動が速まる。

「その紅い槍は……! まさかお前……」

 そうしてそのローブで隠されてた顔を出す。そう、黒髪に白い肌。凛としたその目つき。

「御名答よ。そう、『紅の聖槍使い』。西の聖職者・紅染リオンって言ったらわかりやすいかしら」

 そこに立っていたのは、紅染 リオン、その人だった。

「紅染……? お前、何で」

 探していたはずの彼女がそこにいる。しかも、なぜか鋭い槍を持って。俺は頭の中が混乱して何も言葉が思いつかない。

 この状況は、いったいなんだ?

「そこでじっとしてて、カイト。すぐに終わらせる」

 そう言って、紅染は槍を構える。両手に持ったその槍は、貫こうとする意思で固められている。その姿を見て女は不気味に笑いだす。

「クク……。そうか、紅染 リオン……。噂は聞いてるぞ、同胞殺し。まさか極東の地でお前のような矛盾存在に会えるとは」

 挑発するように、その女は紅染にそう吐き捨てる。

 それを聞いて、紅染の表情はさらに険しくなる。

 そして走りだし、その一閃を放つ。

「ダメだ、紅染! そいつ、切っても効かない……まったくダメージがないんだ!」

 俺がそう言ってもその足は緩まない。ただ一直線に敵へと向かう。

「貫け――」

 そして狙うは肩。その槍の姿は、速過ぎて線にしか見えない。

「はぁっ!」

 女はそれを巨大な手の平で防ぐ。そのせいで槍の勢いは衰えた。しかし、それは一瞬。その矛は手の平を貫通し、肩まで行く。

 だけどダメだ……そいつは化け物だ。いくら鋭利なもので刺しても何もない……。

 だが、

「ぐああっ!」

 突然、その女が叫びだす。その大腕を元に戻し、刺された肩を押さえている。

「な――」

 どういうことだ。俺が腹を刺した時は何ともなかったそいつが、今、リオンに肩を刺された時はとてつもない痛みを感じているようだ。

「あっけないわね、セレナ・ブランアルベル。貴方ぐらいなら、私の攻撃への対処ぐらいもっとまともにできたんじゃない?」

 その槍についた血を払うように、紅染は槍を横に振る。そして女は紅染を睨みつけている。

「さぁ。貴方たちの仲間と頭首はどこ? この街にいるのはわかってるのよ」

「馬鹿が……。そんなのあたしが教えるわけないだろ!」

 そう言って、その女は指をはじく。そうすると、女はまるで影になるように、地面に溶けていく。紅染はそれをただ見つめるだけ。追いかけもせずにただ、眺めている。

 そうして、その姿は完全に消えて行ったのであった。

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