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第二章 ~見えない・闇~ 2

 何とかあの猛烈な殺意の塊たちを避けて、朝のホームルームを終えることができた。

 本当に大変だった……。紅染の目が俺から離れるやいなや、いきなり傘や角の痛そうな辞書を標準装備していた後ろの人たち。俺をどうするつもりだったんだ……?

 今現在、リオンはトイレに行っているので教室にいない。それのお供をするように、クラスの女子はこぞってついて行ったので、俺の安全は確保されていた。

「はぁ……疲れた……」

「朝からモテモテだな、カイト」

 そんな俺の様子をニヤつきながらからかってくる、霧。こっちを向いて、俺の机の上に顎膝をついている。

「いいか、あの恐怖は尋常じゃない。全ての人が敵に回った時の怖さを考えてみろ。ぞっとするだろ?」

 目はものを見るためじゃなく、人を威嚇するためにあるんだと言わんばかりの視線。言葉には出さないものの、その怨念は尋常じゃなかったのを覚えている。

「確かにそうだが、その渦中の、しかも中心人物一人がお前の味方なんだから、まだましじゃないのか?」

 霧は白い歯を見せてそう言う。まぁその通りだ。俺対全ての生徒、という図ではない。少なくとも、俺の味方という人は学校に何人もいる。もちろん、紅染を含めて。

 しかし、あいつがその原因なんだから、味方にカウントするのはどうだろうか?

「それでも、大変だったことには変わりない。俺が何をしたっていうんだ」

「一日にしてできたこの学校のアイドルを、一日にして奪い取ったやつだからな。手ぇ握って登校なんて俺でも妬いちまうよ」

 と、言われ、急にそのことを思い出してしまい、顔が赤くなるのがわかった。

「っつ――! ちが……! あれはあいつが勝手に……」

「でも、それを止めなかったカイトもカイトよね」

 いきなり後ろから鋭い声が聞こえる。……なんでこう、今日は色々なやつがつっかかってるんだ?

「雫。お前何しに来た?」

「別に~。ただどっかのお惚気高校生が、朝っぱらから節操もなくデレデレしていないかどうか確認しにきただけよ」

 ……こいつ。

 しかし今の俺に言い返せる言葉などほとんど持ち合わせていない。なので別の話題で逃げることにした。

「そうだ。そういえばさっき、噂になってたのホントか?」

「噂って……ああ。うちの生徒が行方不明とかいうやつ?」

 そう、その通りだ。さっきからもちらほらと聞こえてくる話題なのだが。

「親が警察にも捜索願いを出してるらしいじゃないか。誘拐かもしれないってのも流れてるぞ」

 その女子生徒はまじめな子で、部活もしっかりやって、成績もそれなりに優秀だったらしい。そんな子がいきなりグレて家出というのも無くはないが、可能性は低いだろう。

 学校の教員たちも少し不安そうな面持ちであることが、今日の朝見たとき伺えた。

「物騒な時世だな。確かうちの近所の人も行方不明になってたぞ。なぁ、雫?」

「ええ。ホント、少し怖いかもね」

 というか、少しなのか。普通の人はかなり怖いことだと思うのだが……。

「とりあえず、夜とかに出歩く時は気をつけた方がいいかもな」

 霧がそんなことを言う。そして、俺は不意にあることを思い出す。

――気をつけたほうがいい。貴方も、その周りも狙われてる――

「――え?」

 そういえば、あいつはそんなことを言っていた。

 これはただの偶然か?

「どうしたの、カイト? 急に怖い顔して」

 雫が心配そうにこちらの顔を覗き込んでいる。

「いや、何でもない。ちょっと考え事を」

 このことは霧や雫に言うべきではない。どうしてかはあまり分からないが、何となく、このことは伏せといた方がいいと直感で思った。

「とりあえず、集団下校とか小さいことからやるのも悪くないな」

 誤魔化して、俺がそんな意見を言うと、二人はなぜか噴き出していた。……む。何か妙に馬鹿にされてるような気が。

「集団下校って、小学生みたい」

「カイトのセンスは毎回変な方向に向いてるよな」

「な、なんだよ! 別に普通だろ。危ない時は固まって動いた方がいいんだぞ」

「はいはい。でもごめんね。実は今日も私と兄さんは用事があるんだ」

 雫は手を前に出して、謝る。しかし俺はそのことに少しながら困惑してしまう。

「え? ……ああ。そうだよな。親御さんが帰ってきてるんだっけ。それじゃあ忙しいのはしょうがないか」

 そう言うと「ああ、そうだ」と言いながら、なぜか視線を泳がせる二人。いったいどうしたというのだろう?

 そういえば、いつも俺が二人の両親の話をする時、このような感じになるような気がした。……やはり、薄々感じていたが家庭の事情だろうか? ならば俺もあまりこの話題に触れるのは極力避けることにした方がいいだろう。

「そういえば、この後、雫のクラス教室移動じゃなかったっけ? あと一分しかないけど大丈夫なのか?」

 俺がそう尋ねると、教室にかけてある時計を見てあわてだす。

「ホントだ! わわ! ……って、そうだ、兄さん。これ今日のお弁当。これを届けに来たの」

 そう言って渡したのは、先ほどからずっと手に持っていた青いストライプ模様の巾着袋。

「んあ。忘れてたのか、どおりでカバンが軽いはずだ。というか、俺が忘れたのずっと黙ってたのか?」

「ええ。家出て、いつ気づくかなーって思っても兄さんまったく気づかないんだもの。結局私そのこと忘れて、自分のカバンを開けた時に思い出したの」

「そうなのか。悪い。さんきゅーな」

「今度から気をつけてよね」

 そんなことを笑顔で言って、それを渡し、「それじゃ」と手を挙げてだだだーと駆けていく、雫。

 ……。

「なぁ。俺思うんだけど。恨まれるのは俺じゃなくてお前だと思う」

「は? 何が?」

 授業開始の鐘が鳴り響き、俺は深くため息をついた。

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